1641


……そのあと、シキお婆ちゃんは泣き疲れたのかすぐに眠ってしまった。

ちょうど様子を見に来た仁さんにあとを任せて、私と貴一さんはお部屋をあとにした。




「……きーちさん、ほっぺ大丈夫?」

「平気だよ」


お婆ちゃんに叩かれた貴一さんの頬はほんのり赤くなっていた。

心配になって声を掛けると、貴一さんはいつものへらっとした笑みを浮かべながら、平気と答えた。



「あの……」

「ん?」

「……今日は、巻き込んでごめんなさい」

「奈々ちゃんが謝ることじゃないよ、僕が最初にやるって言いだしたことだし……それに、祖父さんと祖母さんの話も聞けて楽しかったよ……」

「そっか……」



(よかった……)


貴一さんの言葉に、ほっと安心して笑みが零れた。

すると、貴一さんは私の顔をまじまじと見たあと「しまった……」と口元を手で覆いながら声を零した。



「どうしたの……?」

「……せっかく夫婦のふりしてたんだか、やっぱりキスの一つでもしとけば良かったよね。もったいない……」


なんて、いつものエロおやじ発言。
なんでこの流れでそんな発想が出来るんだろう。

呆れつつも、私は可笑しくてついつい笑ってしまった。



「きーちさんの、エロおやじ」

「奈々ちゃんが可愛いからだよ」


なんていつものやりとり。
ほんの少しだけ、昔に戻ったみたい。

貴一さんが私を見て、また微笑んでくれている。


それだけで、今はただ幸せだった。




< 195 / 257 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop