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気がつけば私はソファに座る貴一さんの体を押し倒していた。
大きい体だけど、不意打ちだったからか、貴一さんはあっさり押し倒されてくれた。
「えー……っと、奈々ちゃん」
「はい」
「なに、してるの?」
「見てわかりませんか?押し倒したんです。ね、エッチしようよ、きーちさん……」
そう口にすると、私の下で貴一さんは目を見開いた。たぶん、凄く驚いてて、動揺してる。
そんな表情でさえ可愛く思えてしまい、私はこんな状況なのについ笑みを零してしまった。
「奈々ちゃん、冗談やめて。どきなさい」
「やだ」
困った顔。
エロおやじくせして、こんな時は大人の顔だ。それがまた悔しくて。悲しくて。
上に乗ったまま私が自分の制服に手を掛けると、貴一さんは私の手を掴んで止めた。
「やめなさい」
「やだ。離してよ」
掴まれた手が震えた。
声も、震えて。
ううん。手や声だけじゃない。
本当は体中ガチガチに震えてた。
「怖いんでしょ」
「怖くないもん」
「僕……一応既婚者なんですけど」
そう言って貴一さんは手を離して、左手を私にかざした。
目の前に差し出された薬指の指輪がやけにチカチカして見えた。
「……浮気は、男の甲斐性なんじゃないの」
「それは祖父さんのモットーで、僕はそんな気ありません」
そう言って貴一さんは腰を浮かして起き上がった。私が上に乗ってても御構い無しに。
向かい合うみたいな体制になると、貴一さんは私の前髪にそっと触れた。
おでこにかかった髪を丁寧に掻き分けると、視界が明るくなった。
貴一さんの顔がぼやけて見えた。
「ほら、そんなに泣いて……どっちが襲われてるかわかんないね」
そう言って貴一さんは私の涙を拭った。
優しい手つきで。
「きーちさん……」
「ん?」
「あたし、きーちさんの愛人になりたい」
2番目でも。遊びでもいい。
貴一さんにもっと触れて欲しかった。
……私は、子どもだから。
本当はずっと待ってるつもりだったけど、子どもだからそんなのもうとっくに続ける気にもなれなくて。
子どもだから、貴一さんが欲しくて欲しくて堪らない。
思い出だけじゃ、生きていけない。
(貴一さんが狡い大人なら、あたしはわがままな子どものふりをするよ)