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■ □ ■ □



「……昨日は、ごめんなさい」

「うん」


あの後。私は貴一さんと一緒に帰った。

駅まで歩きながら、私は昨日の事をきちんと謝った。貴一さんは「うん」としか応えなかった。

もしかしたら、貴一さんは昨日の私の事を怒るとか呆れるとかしていたかもしれない。けれど、それでも一緒に歩く歩幅は私に合わせてくれた。


駅の方まで来て、カフェの前を通り過ぎた。前はあのカフェの窓際の席に一緒に並んで座ったっけ……。




「……寒い?なかに入ろうか?」


カフェを見ていたらふいにそう尋ねられて。私はこくりと頷いた。
寒さも忘れるくらいずっと緊張してたから、本当は寒くなんてなかったけれど。

お店に入ると、私と貴一さんはあの窓際の一人掛けの席に並んで座った。向かい合わせの席じゃなくて内心ほっとした。だって貴一さんの顔、まともに見れないから。


貴一さんがブラックのコーヒーを頼み、私は甘いカフェラテを頼んだ。
運ばれて来たドリンクの付け合わせのケーキは、チーズケーキだった。



「奈々子ちゃん、ケーキ食べてよ」


そう言って貴一さんがお皿をこちらに寄せる。以前と同じ様に。それがなんだか嬉しかった。

でも、以前と違う所もある……



「……名前、いいよ」

「……え?」

「奈々ちゃんって、呼んで」


そう言うと貴一さんは少し気恥ずかしそうな笑みを含んだ顔して「うん」と頷いた。


「奈々ちゃん」

「……うん。やっぱ、こっちのが好き」


そう言って私も笑った。

貴一さんに「奈々ちゃん」って呼ばれるの、やっぱり大好き。呼ばれる度に嬉しくなる。とても、幸せな気持ちになれる。



「そういえば……シキさん、元気?」


貰ったチーズケーキを食べていると、貴一さんはコーヒーに口をつけながらそう尋ねてきた。


「……ん。元気だよ。こないだね、"千代ちゃん"じゃなくて、"あたし"としてちゃんと会いに行ったの。

まぁ、まともに口きいてくれなかったけど……」

「……そう」

「でもね、お婆ちゃん前に一緒に折った折り紙をずっと大事に持っててくれたの。
それで、あたしもお婆ちゃんが折ったのちょうだいって言ったら、鶴を作ってくれたんだ……」


宝物がまた一つ増えて嬉しかった。

そう話すと、貴一さんは「よかったね」と嬉しそうに言ってくれて、私もますます嬉しくなって「うん」と笑って返した。

そうして笑い合って話すことが出来たおかげか、さっきまでぎこちなかった空気も和らいだ気がした。

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