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……あの日、

『松嶋やよい』からの電話の後。


「どうしたの?奈々ちゃん。泣きそうな顔して」と、貴一さんはいけしゃあしゃあとそんなことを訊いてきた


「なんでもない」と私が答えると、

「そう?」と、貴一さんは気にしてるんだかそうじゃないんだかよくわからない表情で首を傾げた。


それから、なにを思ったのか急に、

「この部屋さ、夕陽が凄く綺麗に見えるんだよ」と、そんなことを言い出して、バルコニーに連れ出された。


バルコニーは風が強くて寒かった。けど、それを気にする以上に、街に沈むオレンジ色の夕陽が綺麗だった。



「夕陽が綺麗に見えるのが気に入ってここを借りたんだ」

そんなロマンチストな小っ恥ずかしい話を聞かされて、さっきまでのモヤモヤも忘れて私は笑みを零していた。



「貴一さん可愛いですね」


そう呟くと、

「可愛いのは奈々ちゃんの方だよ」

と、軽く返される。


笑う理一さんの唇に、私は強引にくちづけをした。うんと背伸びをして。



ちゅっ。と、予想外に恥ずかしい音がして、こっちも恥ずかしくて死ねそうだった。


けど、理一さんも予想外だったらしく、ぽかんとした今までにないくらいに惚けた顔をした。

貴一さんから頬やデコへのチューはいっぱいあったけど、私からし返すなんてことも、口と口のチューも今まで一度もなかったからよほど驚いたのだろう。



珍しいその表情が見れて、私は思わずにやりと笑みを浮かべてしまう。



「どうしたの急に……」

「いつもの、しかえし。……どう?女子高生のファーストキスだよ」


「まいった。降参。

悪い子だね、奈々ちゃんは」


そう言って貴一さんはわざとらしく肩を竦めて笑った……。
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