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夕陽が完全に街に沈むと、空はもう真っ暗で微かに夜の匂いがした。



「ご飯、なにか食べに行く?」

「あたし作ろうか?」


夕飯食べに出かけたらそのまま家に送り帰される気がして、せめてもの抵抗でそう申し出てみる。


母子家庭育ちの私は、忙しいママの代わりに家事をこなすことも多い。だから料理にもそれなりに自信はあった。



けれど、


「ほんと?あー……でも、ごめん冷蔵庫空だ。惜しいけど、手料理はまた今度ね」


さらりとかわさられた。



それもそうか。

貴一さんはこの後電話の彼女と会うのだろうし、おっぱい触ったぐらいでビンタしてくるお子様に長居されても困るだけだよね……。

そんな、やや僻んだ考えが浮かんでくる。

(私って本当に可愛くないな)



結局。その日の夜ご飯はラーメンになった。貴一さんちのマンションの近くにあるラーメン屋さん。

ラーメンは好きだし、貴一さんとの食事も楽しくて好きだけど。

その時ばかりは、
彼とキスしたその口でラーメンをすするのが少しだけ嫌だった。


なんて思ったったところで、そんな女心をこのおじさんはきっとわかってはくれないのだろうけど……。






(……そしてあれ以来、貴一さんから連絡はないし)



あの日の出来事を思い返し、思わずため息が零れた。


次の約束をしなかったせいか、貴一さんからの連絡はない。ないと言っても、まだあの日から4日しか経ってないけど……。




クリスマスに会いたいなんて贅沢は望まないけれど、それでもなんでもない日にまた普通にご飯食べに行ったりしたいと思ってしまう。



「先生、恋って難しいものですね〜」

「難しい相手を選んだのは自分だろ」



先生は苦笑いしながらそう言う。
言いながら大きなお星様を渡された。

そっと背伸びして、お星様をツリーのてっぺんに飾りつければクリスマスツリーは完成した。



「先生、プロポーズ上手くいくといいね」

「お前もな」


返事と一緒にくしゃりと頭を撫でられた。


まるで慰められてるみたいな気分にさせるその大きな優しい手のひらに、ほんのちょっぴりだけ、泣きそうになった。


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