ヒカリ

十五



珠美にどう言おうかと考える。


せっかく紹介してくれたのに、キスされたら気持ち悪くて嫌になったなんて、かなり身勝手な話だ。
付き合うと決めたのは奈々子なのに、その後結城のもとに行ってキスしてきただなんて、ひどすぎる。


今週はお盆休みだ。


奈々子は実家に帰ろうと思っていた。
それほど遠いところではないけれど、帰るとなるとそれなりに支度も大変だ。



奈々子は携帯を見る。
邦明からの不在着信が何件か入っている。
電話にでるべきなのはわかっていたが、どうしてもできなかった。


お盆休みの間、たっぷり考えればいい。
火曜日は休日診療の当番だが、実家が東京にある珠美が診療所には出てくれる。
久しぶりに親の元でごろごろして、気持ちと考えを整理しよう。
奈々子はボストンバッグに何日か分の着替えをたたんでしまった。


月曜日の夜には、鞄の用意もでき、部屋の掃除も完了した。
日持ちしない食べ物は処分し、冷蔵庫はほぼ空っぽだ。
奈々子はシャワーを浴びてパジャマに着替える。


明日何時に家を出ようかな、と考えていると、携帯がなった。
携帯を手に取ると、珠美からだった。


「まずい」
そう思ったが、奈々子は覚悟を決めて電話にでた。

「もしもし?」

「もしもし? 奈々子?」

「うん。どうしたの?」

電話の向こうの珠美は、軽く慌てているように思えた。

「あのさ、明日の出勤、変わってくれない?」

「どうしたの?」

「彼がさ、仕事だっていってたんだけど、突然お休みになったらしいの。だから出かけられないか、って」

「そうなんだ」

「彼、お盆の間は実家に帰るから会えないの。だから、本当に一生のお願い。明日変わって!」

「いいよ。実家近いし。週末だって帰れる場所だから」

「ほんとう? ありがとうありがとうありがとう!」
珠美が電話越しに叫んでる。

「珠美にはいろいろ借りがあるから」

「やっぱ、奈々子は頼りになる。本当にありがとう」
珠美はそういって電話を切った。
邦明のことは一言も出なかった。
奈々子はほっと胸を撫で下ろす。

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