ヒカリ


着替えてから濡れた衣類を手に持ち出ると、キッチンに結城が立っていた。

彼も着替えをすませている。
黒いTシャツにカーゴパンツをはいている。


「コーヒー飲む?」

「はい。ありがとうございます。あの、今日、拓海さんは?」
奈々子がたずねる。

「……今日はでかけてる。帰らないんだ」
結城がそう言った。


奈々子の緊張はピークに達する。

どうしよう。
帰ってこないんだ。
ずっと彼と二人。


結城はコーヒーマグを持つと、やっと目を上げて奈々子を見る。
それから「濡れた洋服かわかさないと」と言った。

「浴室乾燥機がついてるんだ。それにかける」

「あ、やります」
そう言って奈々子はバスルームに戻った。


結城はマグをキッチンカウンターに置くと、後からついてくる。
結城に背中を向けているので、奈々子は死ぬほど緊張していた。


結城が入って正面の洗濯機の上に置いてあったハンガーを無言で指し示す。


奈々子は頷いてハンガーに衣類をかける。
浴室内の竿に吊るした。


「そこがスイッチ」

結城はバスルームの入り口から入ってこようとはしない。


奈々子は言われる通りに、乾燥機のスイッチをいれた。

「髪乾かそうか」
結城が言う

「そのままじゃ風邪を引く」

「大丈夫です。すぐ乾くから」
奈々子はそう言った。

早くこの狭いバスルームから出たかった。

「じゃあせめて、もっとタオルでふかないと」
結城は洗面台脇の棚から、新しいタオルを取り出す。


奈々子にタオルを渡すとき、結城の指が奈々子の手に触れる。


奈々子は思わず手を引いた。

タオルが足下に落ちた。


どうしたらいいんだろう。

すごく怖いのに。


結城に触れたかった。



結城は奈々子の手をとると、強引に引き寄せた。
頭を支えて奈々子の唇を奪う。


しばらくお互いの唇をむさぼる。
だんだん身体が熱くなる。

怖いけど、
でも、
止められない。


結城は奈々子を壁に押し付け、首筋にキスをする。
結城の熱い息が感じられる。

奈々子は思わず声をだした。


彼の手は思ったよりもずっと強く、大きくて、奈々子の身体はいとも簡単に支配されていく。


結城は奈々子を抱きかかえると、バスルームを出て、リビングの右側にあるもうひとつの部屋へと向かった。


奈々子は結城にしがみつく。
怖くて、結城の顔を見ることができない。

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