ヒカリ

二十五



新幹線が静かに動き出す。
奈々子はシートにもたれかかり、ぼんやりと窓の外を見ていた。



秋晴れの空。
雲は少ない。
日差しのあたる窓はほのかに暖かい。

奈々子は指で窓を触り、それからため息をついた。


火曜日、結城はいつもの通りに診療所に来た。
結城の横顔は少し緊張していた。
奈々子は泣きはらした目をみられぬよう、始終うつむいていた。


案の定珠美が「どうしたの?」と訊ねて来たが、奈々子は「なんでもない」と知らぬふりを決めた。



絶対に誰にも話せない内容だから。



土曜日の診療をお休みさせてもらった。

珠美は「いいよ。借りがあるし」と快く了承してくれた。
かず子先生も、特に何も聞かず「いいわよ」と言ってくれた。
こういう時、まるで家族のような職場の人たちを、ありがたいと思う。


新幹線はビルの間を抜けて行く。
徐々にスピードを上げる。


ついこの間、結城とこの列車に乗った。
シートに隠れて、結城は奈々子にキスをした。



全部夢のようだった。

そして本当に夢だった。



一泊二日で実家に帰る。
短い滞在だけれど、自分には必要な気がした。

母の手料理が恋しかった。
弟の減らず口を聞きたかった。
そして父の側で、その暖かさを感じたい、そう思った。



「僕はもう一生、他の女性と関係を持ったりしない。そんな必要ない。約束できる」



愛してもいない女性と一生過ごすという約束をするほど、結城は拓海を愛している。

今奈々子が結城と離れてしまったら、拓海は結城の元を去ることができなくなるから。


奈々子が必要なのだ。




窓の外には住宅街と、緑の木々。
郊外に行くほど田畑が増えて行く。


奈々子は鞄から携帯を取り出した。
結城から連絡はない。
奈々子からの返事を待っているのだろう。


もし奈々子が何も聞かなかったことにすれば、結城は奈々子に夢を見せ続けるに違いない。


それは甘くて、
優しくて、
幸せだけど。


「本当は誰を愛してるの?」


と聞いてはいけない。


そんな夢。

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