ヒカリ


二人はしばらく無言で歩いた。


「さっきはお友達の話しちゃって、すいませんでした」

「別にかまわないよ」

「一緒に暮らしてるなんて、びっくりしました」

「なんで?」

「お友達、なんていうか、一人でいるのが好きそうな感じがして」

「あいつはあんな顔だけど、普通だよ。休日はひげも剃らずにゴロゴロしてるし、シャワーだって浴びない」

「想像つかないな」
ゆきがわらった。


再び無言になった。
どうやったらゆきを助けられるだろう。
やっぱり警察に行くのが一番のような気がした。
なんとしてもあのアパートに一人で住むことだけは避けさせたかった。


ゆきの友達のマンションが近づいてくる。
暗い道だ。
ここを一人で歩かせたくない。
ゆきが心配でしかたなかった。


後ろから車が来る音がする。
ヘッドライトが二人を照らした。


拓海は無意識にゆきの腕をひっぱり、道路脇に寄らせた。


車が通りすぎる。
また静かな夜が来る。
ゆきが拓海を振り返り、見上げた。


拓海はほとんど反射的に、身をかがめてゆきの唇にキスをしようとする。


ゆきが目を閉じる。


自分の唇がゆきの唇に軽く触れて、それからはっと身をひいた。


ゆきが目を開く。


「あ、ご、ごめん」
拓海は動揺して言葉が揺れる。

「キスをしたかったら、してもいいですよ」
ゆきが意地悪をするようにそう言った。


拓海は下を向く。


震えてきた。駄目だ。


「ちがうんだ。ごめん。君を僕の暮らしに入れる訳にはいかない」


「どういうことですか?」
ゆきがいぶかしげに訊ねる。

「ゆき先生は、僕のことを知らないから……」

「……わかりました」
ゆきは唇をきゅっと結び、そう答えた。

それから笑顔を見せる。

「また来週」
手を小さくふった。


マンションの玄関へ早足で歩いて行く。
そしてエントランスのところで再び振り返り
「送ってくれてありがとう」
と大きく手を振った。

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