ヒカリ


会計をすませ、皆駅に向かう。


ゆきは「わたしはこっちなので」と言って、お店の前で別れをつげた。

「おつかれさまでした」


拓海は友達の家までの暗い道を思い出した。
ゆきが一人で歩くには、時間が遅すぎる。


先生たちの一団をそっと離れ、駆け足でゆきに追いついた。


「あれ?」
ゆきが振り向いてびっくりした声をあげる。

「送るよ」
拓海は並んで歩き出した。

「みんなが不審がりますよ」

「いいよ、そんなの。ごまかせる」
拓海はそう言った。

「ありがとうございます」
ゆきが笑顔を見せる。

その笑顔を見ると、拓海の心に不安が広がる。



日中は暑いけれど、夜は涼しい。

車が通る。
埃が舞い上がる。
大通りを逸れ、一本はいるとそこは静かな住宅街。
街灯がぽつぽつと間隔を置いてならんでいる。
どこかで犬が鳴いていた。


「友達のうちだよね」
拓海が訊ねる。

「はい」
ゆきがうなずく。

「あれから、嫌がらせのメールくる?」

「……はい」
ゆきが眉をしかめてそう答えた。
「部屋の写真はなくなりましたけど、一日に数十件ほどメールが入ります」

「もう一度携帯変えてみたら?」
拓海はそう言ってから、なんの解決にもなってないことに気づく。

「う……ん」
ゆきが曖昧にうなずいた。

「やっぱり警察に連絡しようよ。なんとかしてくれるかも」

「大丈夫ですよ。嫌がらせだけですし。危害を加えられた訳じゃないから」
ゆきが笑顔を見せる。


どうしてそんなに楽天的でいられるのか。


「友達の家に居続けるのも申し訳ないので、もうアパートに帰ろうとおもうんです」
ゆきが言った。

「え?」
拓海は驚いてゆきを見た。

ゆきの白い肌が、暗闇に浮かんで見える。

「だ、駄目だよ」
拓海は強い口調でゆきを遮った。

ゆきは拓海の顔を見ると
「大家さんと相談して、鍵を付け替えてもらうことにしました」
と言った。

「それだけ? 危ないよ」

「自分でもいくつか鍵をつけるつもりです。家賃を払い続けてるし、引っ越しするお金もないんです。友達のうちにこのままずっといるのは無理なので……」

「実家に帰ったら?」

「実家から幼稚園まで軽く二時間はかかります。寝不足で倒れちゃいますよ」
ゆきが笑った。

「でも……」
拓海はゆきの無謀な行為を止めたかった。

「じゃあ、拓海先生んちに泊めてくださいよ」
ゆきが冗談めかしてそう言った。


拓海は言葉につまる。


その様子をみてゆきが笑った。
「冗談。でもありがとうございます。心配してくれてるんですよね」

「……泊めてあげたいけど、同居人がいるんだ」

「女の子?」
ゆきが少し心配そうにそう訊ねた。

拓海はあわてて首を振る。
「違うよ。さっきの幼なじみ」

「そっか」
ゆきが言った。

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