ヒカリ



今日は夏祭りだ。
夕方涼しい時間から始まる。


職員達は準備に余念がない。


園庭の真ん中には大きな櫓が立ち、幼稚園の各クラスには射的やくじ引きなどの余興がそろう。


庭に面したクラスのひまわり組では、焼きそばの屋台が出る。
毎年有志で、子供達の父親が屋台を手伝う。
三時ごろには、父親達もそろうはずだ。
それまでにできる準備はしてしまわなくてはならなかった。


子供達は、この日のために、盆踊りを練習してきた。
飯田先生のピアノに合わせて、子供達の小さな手が右へ左へとゆらゆら揺れた。
うまくできる子も、そうじゃない子も、一様に真剣だった。

今日の本番が楽しみだ。


本番と言えば、拓海は今日のために太鼓の練習を毎日してきた。
ただ叩くことはすぐにできたが、強弱をつけてうまく叩くのはなかなか難しい。

拓海は少々緊張していた。


ひまわり組の中に折りたたみ式の机を出し、コンロや調理器具を用意する。
ゆきも腕まくりをして、重い荷物を運ぶ。


実際の調理は父親達が行うのだが、これがその年によって随分味が違う。
はずれの年はたくさん売れ残ってしまい、先生たちががんばって食べるようだ。

拓海は今年の父親達がうまくやきそばを作れますように、と本気で願った。


拓海はゆきと話をしたかったが、なかなかチャンスがない。
仕事帰りに食事に誘えばいいだけの話しだが、先日のことを思い出すと気が引ける。
ゆきが他の先生たちと話をしているのを耳にしたが、まだ友達の家にいるようだ。


拓海のバッグには結城から借りたお金がずっと入っている。
ゆきが自分のアパートに帰る前に、引っ越しをさせたかった。


「休憩しよう」
飯田先生が声をかけた。

ゆきと拓海は手をとめる。

「何か飲み物買ってきましょうか」
拓海が声をかけた。

「そう? ありがとう」
飯田先生が眼鏡を直しながら言う。
「他のクラスの先生たちにも聞いて、買って来てもらおうかな」

「わかりました」
拓海はうなずく。

ゆきが
「きっと重くなりますので、私もいきます」
と立ち上がった。


各クラスの先生たちに希望の飲み物を聞いて、二人はスーパーまで買い物にでかけた。

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