ヴァニタス
もしあの時死んでしまっていたら、私は何も知らないままだった。

人を好きになることも、人を思うことも、何も知らないままだった。

好きな人を支えることも、好きな人を愛すことも、何も知らないままだった。

それらのことを何も知らないまま、私は死んでいた。

武藤さんが止めてくれたから、私は助かったのだ。

武藤さんが手を差し伸べてくれたから、私は死なずに済んだのだ。

武藤さんが好きになってくれたから、私は生きることができたのだ。

好きな人に抱かれて、好きな人を愛して、好きな人に愛された。

この嬉しい出来事を、私は絶対に忘れない。

好きな人のぬくもりに包まれながら、私はゆっくりと目を閉じた。
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