ヴァニタス
「えっ、何がですか?」

訳がわからなくて聞き返した私に、彼は自分が持っていた書類を私に見せてきた。

「――南部さん、ですか?」

彼に視線を向けた私に、
「“南”って言う字が一緒ですよね?

僕は名字ですけど、君は名前で」

そう言って嬉しそうに笑った。

「ああ、そうですね」

私は笑った。

「あっ、そろそろ戻らないと行けないので」

話を切りあげた私に、
「そうですか。

じゃあ、また機会があったら」

南部さんは笑った。

優しい人なんだなと、この時の私は思った。

彼と何気なく交わされた会話が、悪夢――いや、地獄の始まりだと言うことに気づかずに。
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