夜明けのコーヒーには 早すぎる
 カドカワはお猪口を空けると、一息吐(つ)いてから、再び口を開いた。
 「映画館でのデートから始まり、喫茶店での告白。これは、ダイさんに取っては、正規の手順を踏んでの告白だったのでしょう。ですから、振られるにしても、自分の納得出来る理由が欲しかったのだと思います。ですが、ユラさんの答えは、ダイさんの納得出来るものでは無かった。だから、ダイさんは知りたかったのだと思います」
 「知りたかった?」
 「ええ」カドカワは頷き、ユラを見据える。「自分が振られた理由を。だからこそ、思い詰めてストーキングという行為に出てしまった。しかし不運なことに、ダイさんはストーキングを始めて直ぐに通り魔に襲われてしまう。恐らく、タイミングが良過ぎたのでしょうね。自分がユラさんに襲われたと思い込んでしまう。そして駄目押しの様に、ユラさんが見舞いに来てしまう。被害妄想に捕らわれているダイさんには、ユラさんのお見舞いも警告に思えたことでしょう。しかし、考えようによっては、ある意味ダイさんは幸運といえるかも知れません」
 「襲われたのに、ですか?」
 「それ自体は不運ですが、それのお陰でストーキングを続けずに済んだのです。下手をすれば、そのままストーカになっていた可能性もあります」
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