夜明けのコーヒーには 早すぎる
肴(さかな)その十 旧友の悩み
 「ふう」
 ぼくは日本酒を呷って、嘆息した。ここ、『ロンド』の常連であるぼくの、日課のようなものだ。今ではすっかり顔を覚えられ、カウンターに座ると、何も注文しなくても、日本酒の入った小振りの徳利(とっくり)とお猪口、それにタコわさが運ばれてくる。
 ぼくがタコわさをつつきながら、お猪口を傾けていると、いつもの如くヒロコが『ロンド』へ入ってきて、ぼくの隣に腰掛けた。
 ヒロコもぼくと同じく常連なので、何も注文しなくても、ビールと餃子が運ばれてくる。実は、ここ『ロンド』の餃子は、某有名餃子チェーン店よりも美味しい―と、ぼくは思っている。
 ぼくとヒロコは、いつもみたく乾杯をした。
 ビールを一呑み、「うまっ」醤油とお酢を混ぜ、その中に辣油(らーゆ)を差した垂れで餃子をぱくりと一口食べて、「うまっ」そしてまた、ビールを呑んで、「うまっ」というヒロコの呑み方を見ながら、ぼくも餃子を一つ頂く。
 「うまっ」
 つい、口に出してしまう程美味しい。ぼくは日本酒を呷った。
 「ふう」
 再び嘆息。この世の至福を感じる瞬間である。
 そんな感じで呑み始めて、三十分程経った頃、「あっ、そういえば―」とヒロコが呟くように言った。
< 168 / 200 >

この作品をシェア

pagetop