夜明けのコーヒーには 早すぎる
　ユリさんは黙ったまま、俯いている。
　やがて、「はい。わかりました」ユリさんは震える声で言った。どうやら泣いているようだ。
　「ユリさん」
　ヒロコが、優しくユリさんの頭を撫でる。
　「先生」
　ユリさんは顔を上げた。潤んだ眼に、涙が溜まっている。
　「わたしは、変でしょうか？」
　ユリは言った。
　「いいえ」ヒロコは、ゆっくりと首を振る。「人が人を好きになるのは、ごく自然なことよ」
　「でも、わたしは女性が好きなのです！男性を見ても、何も感じない。いつも、女性を意識してしまうのです！」
　「それの、どこが変なの？」
　ヒロコはさらっと言ってのけた。
　「えっ？」
ユリさんは、茫然自失といった様子。
　「人類の歴史において、同性愛はそう珍しいことじゃないの。だから、別に変なことでも何でもないのよ」
　「そう、なのですか？」
　「ええ」ヒロコは頷き、ユリさんに微笑んだ。「ただ、今の世の中が同性愛者に偏見的なのは否めない。でも、これだけは覚えていて、自分のセクシュアリティを否定しないで、受け入れて生きて欲しいってこと。相手に何かを求めることが、とても傲慢なことだとは理解してるわ。でも、わたしはユリさんにそう生きて欲しいの。これは、わたしの我が儘だけど、ね」
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表紙・目次

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