夜明けのコーヒーには 早すぎる
 「はい」
 ユリさんは俯き、呟くように言った。
 少し震えているようだ。
 無理もないだろう。同性愛者に対する偏見が強いのが、現状なのだから。
 しかし、変なものだ。本来日本人というものは、性的には奔放だった。戦国時代には、主従の関係を強める為に、一夜を共にすることは当たり前の事だったと聞くし、勿論、跡取りを残す為に女性とも関係を持っていた。
 つまり、つい数世紀前までは、日本人は性的にはバイセクシュアル―両性愛者だったといえる。メンタル面でも、武田信玄が配下に送った恋文のようなものが残っているという話を聞いたことがある。
 ところが、ヨーロッパから流れてきたキリスト教の考え方が広まり、同性愛がタブー視されたという説を聞いたことがある。嘆かわしいことだ。
 自分のセクシュアリティに思い悩む若人を見る度、ぼくはそう考えてしまう。
 「正直に、わたしの気持ちをユリさんに言うわ」
 ヒロコが言った。その声を聞きつつも、ぼくの頭の中では思考がループしている。
 ユリさんが頷くのが見えた。
 「あなたの気持ちを聞いて、わたしは自分があなたをどう思っているかを考えた。その結果、ユリさんはわたしの生徒。そして、卒業したら良い友達になりたいと思ったの」
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