夜明けのコーヒーには 早すぎる
 「判る?」
 タルボンヌはホホホホホホホホと、掌を口に当てて笑う。
 「ええ」ヒロコは頷いた。「まあ、何となく」
 「じゃあ、受けてくれるのよね!」
 タルボンヌの顔が食い付かんばかりに、ヒロコに迫る。
 「えっ、いや、それはちょっと―」
 「あら?」ミコト先生は首を傾げる。「カトウ先生、お付き合いしてる方がいるの?」
 「それは―」ヒロコは一瞬、嘘を吐こうとして思い止まる。「いませんが」
 「なら、いいじゃないの。一度ぐらい見合いしても、損はしないわよ。結婚したら出来ないんだし」
 当たり前だろ!という言葉を飲み込み、ヒロコは嘆息する。
 「分かりました。お受けします」
 「そう。良かったわー。早速OKの返事をするわね」
 ミコト先生は、足取り軽く職員室から出ていった。
 ヒロコの方はというと、すっかり陰鬱な気分である。
 「はあー」
 自然、声と共に溜め息が出てくる。
 仕方ないか。ヒロコは心の中でそう呟く。
 タルボンヌミコトの言う通り、結婚したら見合いが出来ないのはその通りなんだし、何事も気合いで乗り切ってきたヒロコである。そこは気持ちを切り換えて、自分の受け持つ授業に備えた。

 そして見合いの当日。
 ヒロコは指定された料亭に向かう。
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