あたし、猫かぶってます。
「ねぇ、まだ腕痛い?」
佐伯に怪我をさせてしまったあの日からもう軽く1ヶ月は経ったと思う。
佐伯は相変わらず右手を使わないし、俺の側からも離れない。1ヶ月もすれば治るだろうと思っていたのだけれど、そんなにひどいのなら病院に連れて行った方がいいのではないか。
「動かすと痛いかなぁ、」
遠慮がちにそう言う佐伯に、ため息が出そうになってーーグッと抑えた。
「本、整理してくる。」
そう言って立ち上がる俺の腕をパシッと掴む佐伯。
「奏多くん、ひとつ聞いて良い?」
なんとなく、佐伯の顔が見れなくて俺は佐伯の顔を見ないまま、ゆっくりと頷いた。
「腕が治ったら私ともう一緒に居てくれない?」
「…うん。」
ハッキリ、佐伯に自分の気持ちを言わなければいけないと、そう思った。
佐伯が悪い奴じゃないのは分かった。でも、佐伯は寂しい気持ちを俺で埋めているだけでーーきっとそれは俺じゃなくてもいい。
俺はいざという時に佐伯を選んでやれないし好きな人が居るのに、好きじゃない人といつまでも付き合えるほど俺は優しくない。
「俺は見ての通り結衣が好きだし、正直、佐伯と共に行動してきたけれど、この気持ちは全然揺らがない。佐伯に怪我させたのは悪かったけど、最初に言った通り付き合うのは治るまでのつもりだし。」
「だからーー佐伯。俺は佐伯の気持ち…に、応えられな…い?」
佐伯の方を見て、言葉を吐く俺にじんわりと感じる違和感。佐伯は不思議そうな顔をして俺を見る。
「佐伯、右腕、痛くないの…?」
俺の手をしっかり掴んでいるのは佐伯の右手。さっきから動かしているのに佐伯は痛がるどころか、顔色1つ変えてなくて。
「あ…」
ハッとした佐伯の顔を見て、全てを理解した。
怪我したのかもしれないけれど、佐伯の右腕はもうとっくに治っていたんだ。