あたし、猫かぶってます。
まこちゃんの無視され事件以降、大した出来事も無く、平和に生活していたあたし。まこちゃんもあれ以来普通に話してくれるし、やっぱりあたしの勘違いだったみたいだ。
そして、平和過ぎてそんなこと、忘れかけていたある日。事件は、起こる。
「手紙が無い!」
焦ったように声を荒げるクラスの女の子。ギャルグループだけどわりと仲良しな子だったから、ふと気になってしまった。
「手紙?」
そう聞けば、事情を説明してくれた女の子達。
簡単に言えば。菜穂ちゃんが早瀬にラブレターを渡したかったらしくて、自分の机の中に入れていたんだけど、なくなってしまったらしい。
「見付けたら教えて!!」
あまりに必死に言うから、知奈ちゃんと頷いて、とりあえず席へ戻る。
「…数学。」
数学の教科書を出していなかったあたしは、机に手を入れるーーと、手に感じる違和感。
「手紙?」
プリントやラブレター類は絶対ファイルに入れているし、第一、こんな可愛い手紙もらった覚えない。
見るとそれは『早瀬へ』と書かれていて。ピンクのレースのなんとも可愛い封筒で。シャイな男があたしに手紙を書いたんだと思って静かに中身を開いた。ーーーら、
「あれ。これ、あたしじゃない。」
内容に、『早瀬くん』とか『朔くんと呼びたい』とか書いてあって、慌てて封筒に入れ直した。とんだ早瀬違いだ。
多分これ、さっき言ってたラブレターだ。菜穂ちゃんに渡さなきゃ。
そう思ってアタフタしていたら、突然、佐伯さと美があたしの前へと現れて、信じられないことを口にする。
「それ、菜穂ちゃんのですよね!?」
大きな声に、クラスのみんなが注目する。
「さっき聞いていたんですけど、ラブレター盗んだの結衣ちゃんだったんですね。さっき中身見て笑ってたの、見てましたよ私。」
なんて言いながら、あたしの手から手紙を奪う。
どんどん血の気が引いていく感覚が、自分でも分かった。これはやばい。ていうか、非常にまずいような気がする
って、ちょっと待て佐伯さと美。あたし手紙見て笑った覚えないんだけど。なに話盛っちゃってんの。
「やっぱり二重人格の噂は、本当みたいですね。」
クラスのみんなが見ている中、普段は出さない大きな声でそう言う佐伯さと美。
その言葉に、まんまと佐伯さと美にはめられた、そう理解するのに時間はかからなかった。
奏多ごめん、油断した。