あたし、猫かぶってます。
「早瀬ちゃんが、二重人格?」
ざわざわと、騒ぐ教室の中。やっぱり男子があたしの二重人格疑惑について反応する。まあ、二重人格なのは嘘じゃないけど、
笑った覚えはない。ラブレター見て笑うほど菜穂ちゃんのギャグ線が高かった訳でもないし。
「佐伯ーなに言ってんだよ。」
なんて、男子は笑いながら「早瀬ちゃんに限ってあり得ない」と言い出す。まあ、あり得ちゃうんだけど、ね。
「バカ男子っ!じゃあなんで結衣はうちの手紙持ってんの!?」
男子の笑い声の中に、鋭い声が割り込んでくる。その声は、菜穂ちゃんで。ああ、面倒なことになったなと思う。
猫かぶっているあたしが悪いんだけど、なんだかうまくハメられたような気がする。佐伯って意外に頭良いかも。
「この手紙は、結衣の机に入ってたよ。早瀬って書いてたから、結衣にだと思って開いたの。」
俯きがちに言えば、シーンとする教室。開き直って本性をバラしてしまったら佐伯さと美の思うつぼ。冷静に、冷静にね。
「あたし、結衣から脅迫の手紙来たんだけど。」
シーンとした教室の中、口を開いた女の子が1人。
「まこ、ちゃん…?」
「ごめんね、結衣。バラしちゃって。」
なんて、悪意のこもった笑顔を向ければ、菜穂ちゃんの方へと向かうまこちゃん。もちろん脅迫の手紙なんてあげた記憶無い。
だけど、まこちゃんの瞳は真剣で、嘘ついている様子ではなかった。まるで、ずっと言いたかったとでも言いたげな表情。
ーーーーあの時、まこちゃんが怒っていたのはこのこと?
動揺している間にも、ざわざわと騒がしくなる教室。どうしよう、どうしようと考えるあたし。やばい、これ、ピンチだ。
「ーーーあのさぁ。」
そんなあたしの耳に響く、やけに落ち着いた低い声。
「お前らゴチャゴチャうるせえ。二重人格とか、三重人格とか、俺よりよっぽど性格いいだろ。文句あんの?」
そう不機嫌に言葉を吐いたのは、さっきまで机に突っ伏して爆睡していた、早瀬だった。