ここに在らず。


「……」


トウマさんは、私と目を合わせたまま黙っていた。先程まで訝しげにしていたその表情はスッと元へと戻り、そして今、目の前でまた違うものへと変わっていく。


「……そうだな。それがいいと思う」


トウマさんは、私のお願いを受け入れてくれた。笑っていた。口角が優しく上がって、目が少し細められる。


「…トウマさん?」


でも思わず、私は声を掛けてしまった。なぜなら、彼のその笑顔がーー少し寂しそうに、私には思えたから。


なんで?どうして?そう思ったから声を掛けた。いつものトウマさんならそんな私の思いにも気づいているはずで、すぐにその理由を教えてくれるはず…なのだけれど、


「明日、気をつけて。何かあったらすぐに言ってくれ」


…トウマさんは、寂しげな微笑みを浮かべたまま答えてはくれなかった。





< 392 / 576 >

この作品をシェア

pagetop