ここに在らず。


なんて、不穏な空気を漂わせながら呟いたトウマさん。そんな彼に、「だ、ダメですよ!」と慌てて私は注意をする。


「トウマさんがサボるからいけないんです。ナツキさんの事怒ったらダメですからね!」

「…君はナツキの味方なのか?」

「そ、そういう訳ではありません。ただナツキさんがあまりにも可哀想なので…そう、だから今日も頑張りましょう!ね!そうしましょう!」

「……」


そして、じとーっとした視線で私を見つめていたトウマさんは私に促されるがまま、そのなんとも言えない表情を変える事なくハンドルを握り直し、アクセルを踏みこんだ。それによって車はゆっくりと動き出したのだけれど、何と無くその動きからはトウマさんが納得いっていない様子が伝わるような気がしなくもなくて…けれど、それでも私はそんなトウマさんに気づかない素振りをする。


トウマさんが拗ねている、これは最近ではよくある事だった。もしかしたら昔もそうだったのかもしれないけれど、毎日一緒に居る今だからこそ、私はトウマさんが意外とよく拗ねるタイプだという事に気がついたのだ。それは例えば、話が自分の思っていたのとは違う方向へ進んでいく時であったり、我慢しなければならない状況になった時であったり、私に宥められていると気づいた時であったり。そんな時まるで子供のように彼は、ふんっと拗ねてしまうのだ。

しかもそれがバレているとは思ってもいないみたいで…なんだか最近、遠かったトウマさんが随分と身近に感じられるようになってきた。彼を知る事は彼へとだんだん近付ける事、そんな気がしてそれがまた、一緒にいられる事以上に私には嬉しかったりする。

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