恋人を振り向かせる方法


利用させてもらった?
それは、どういう意味として捉えたらいいのだろうか?

「あの、敦哉さん?何を言いたいの?利用って何?」

混乱状態の頭で、身を乗り出す様に聞いていた。
手はいつの間にか、敦哉さんの腕を掴んでいる。
すると、敦哉さんは呆れた様に目を細めたのだった。

「愛来は鈍いところがあるよな?だから言葉の通り俺は、政略結婚をしなくて済む為に愛来と付き合ってるんだよ」

「え?それって、私と付き合ってるのは、私を好きだからじゃないって事?」

そんなまさか。
あんなに憧れていた人に、騙されていたなどと思いたくない。
きっと、何かの冗談だ。
パーティーの余興に違いない。
そんな期待を持ちながら、確認するように口にする。

「敦哉さん、私を騙してたわけじゃないよね?」

違うと言って欲しい。
すると、敦哉さんは即、頷いた。

「騙してなんかないよ。御曹司ってのは隠してたけどな」

その答えに肩の力が抜ける思いがする。
良かった。
やっぱり、何かの冗談だったのだ。

「もう、敦哉さんてばビックリさせないでよ。一体、何の余興なの?」

「余興?」

「そうだよ。私を利用するとか、突然言い出すんだもん。私たち、お互い好き合ってるんだよね?だから、付き合ってるんだよね」

海風に当たりながら、敦哉さんに抱かれるって、どういう気持ちだろう。
そんないやらしい気持ちが込み上げてきて、敦哉さんの体に手を回し顔を胸に埋めた。
普段も会社ではスーツ姿の敦哉さんだけど、今日の敦哉さんのスーツ姿も素敵だ。
船のイメージカラーに合わせたかの様なワインレッドのネクタイを少しずつ緩める。
すると、敦哉さんも応える様にワンピースのファスナーを下げて、そして言ったのだった。

「俺、一度も愛来を好きとは言った事ないけどな。勘違いした?」

「えっ!?」

咄嗟に体を離すと、悪びれた様子もなく敦哉さんがこちらを見ていた。

「言った事ない
はずだよ。可愛いとか、タイプとかは言ったけどな」

「ええー!?」

何よ、そのオチは!?
呆気に取られて、開いた口が塞がらない。
確かに、思い返してみれば好きだと言われた事がない。
だけど、だけど•••。

「普通、可愛いとかタイプとか言われたら、好きだと思われてるって思うでしょ!?」

まさに、キャラ崩壊。
好きな人の前では可愛くいたいという乙女心は、見事に崩れ落ちてしまった。
気が付けば立ち上がり、敦哉さんを睨みつけていたのだった。
それも、下着姿で。
ファスナーを下ろされていた事をすっかり忘れていて、立ち上がった瞬間、ワンピースはゆっくりと体から落ちていったのだった。
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