恋人を振り向かせる方法


足早に部屋へ戻るとすぐ、敦哉さんは鍵をかけて、私を後ろから抱きしめてきた。
そして大きな手で包み込む様に、胸を揉み始める。
漏れそうになる甘い声を抑えながら、どうにか言葉を口に出来たのだった。

「どうしたの、敦哉さん?急に•••」

すると、胸を揉む手の力を強めて、耳元で囁く様に答えてくれた。

「だって、愛来があんまり可愛い事を言うから」

「可愛い事?それって、さっき言った事?」

「そうだよ。言ったろ?俺がセックスしたくなる理由の一つ。可愛いって思った時って。だから抱きたいんだ、愛来を」

吐息が耳にかかる。
胸を揉んでいないもう一つの手は、私の体の中へと入ってきたのだった。

「あっ•••、いや•••」

セックスって、こんなに感じるものだっただろうか。
単純に気持ちいいだけではない。
心まで満たされる感じだ。
服を脱ぎ捨て、お互い素肌を抱きしめ合う。
そして、息も出来ないほどのキスを交わしていた時だった。

「敦哉くん?いるんでしょ?出てきて」

ノック音と共に、奈子さんの声が聞こえたのだった。

「敦哉さん、奈子さんだよ」

驚いて体を離すと、敦哉さんは意に介した様子はなく、私をベッドへ押し倒す。

「いいよ、別に。放っておけばいい」

そしてキスを続けるも、ノック音は続いた。

「敦哉くんてば!」

奈子さんの声に集中出来ない。
我に返るたびに、つい敦哉さんの体を押し返していたのだった。

「ったく、気が散るな」

小さくため息をつくと、敦哉さんは近くにあった白いタオルを腰に巻き、ドアへ向かった。

「敦哉さん!?」

まさか、その格好で出るのか。

「愛来はそこにいて」

「う、うん」

そう言われて、シーツで体を隠す。
それにしても敦哉さんは、あんな格好で出ていいのだろうか。
いくらその気がなくても、一応結婚相手として選ばれている人の前で、あまりにも露骨過ぎる気がする。
だけど、敦哉さんはそんな私の心配をよそに、当たり前の様にドアを開けたのだった。
少しでも体をずらせば、奈子さんと目が合う。
それだけは避けなければ。
シーツにくるまったまま、視線を窓の外へ向けた。
夕陽が沈みかけた海は、オレンジ色に輝いて綺麗だ。
耳を澄ませば穏やかな波の音が聞こえる。
さっきの修羅場が嘘の様に思えた。
と思った瞬間、耳をつんざく様な声が聞こえたのだった。

「敦哉くん、何をやってるの!?」

一気に現実に引き戻された私は、そっとドアの方向へ目をやった。
敦哉さんが邪魔をして、奈子さんの表情は見て取れないけれど、声だけで焦りは伝わってくる。

「見ての通り、お楽しみ中なんだ。邪魔をするなよ」

「お楽しみ中って•••」

奈子さんが中を伺う様に覗き込んだ瞬間、目が合ってしまった。

「ヤバッ!」

ベッドへ潜り込み、息を潜める。
これでは、今日一番の修羅場になりかねない。
すると想像通り、奈子さんの取り乱した声が聞こえたのだった。

「敦哉くん、いい加減にしてよ。何で、私に嫌がらせばっかりするの?」
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