恋人を振り向かせる方法


私だとあんなに手こずっていたデータ処理も、敦哉さんの手にかかればあっという間に終わってしまった。

「よし、終わりだ。今からだと限られた場所しかないけど、何か食べに行こう」

パソコンを閉じて立ち上がった敦哉さんは、私に笑顔を向ける。
だけど私は、頼まれた仕事もロクにこなせない情けなさで、素直に首を縦に振れなかった。

「本当にありがとうございます。私がやらなければいけなかったのに•••」

「それは違うよ。本来は、俺たちの仕事だったんだ。愛来がそんな風に思う必要はないよ」

「はい。ありがとうございます」

とは言っても、やっぱり割り切れない。
パソコンを自席に戻すと、カバンを手に取りしばらく立ち尽くした。
敦哉さんは、あんな風に誘ってくれたけれど、本当に行っていいものか。
もし、手伝って貰えなかったら、今でも私は仕事をしているはずだ。
それなのに、のこのこと誘いについて行っていいのか分からなかった。
だけど帰り支度を終えた敦哉さんが、機嫌良く声をかけてきたのだった。

「ほら、行こう」

自己嫌悪を感じながらも、敦哉さんの誘いを断り切れるわけもなく、小さく頷いていたのだった。

「敦哉さんて、こんな遅い時間まで仕事だったのに元気なんですね」

夜の街を歩きながらため息混じりに呟くと、笑われてしまった。

「おい、おい。何でそんなに、しおれてるんだよ。俺、余計な事をしたかな?」

「えっ!?違います!そうじゃないんです。ただ自分が情けなくて」

敦哉さんにはむしろ感謝をしているくらいだ。
ほんの少しでも、余計な事をされたとは思っていない。

「それならいいけどさ。良ければ話を聞くから、遠慮せずに言えよ?」

敦哉さんは私に笑顔を向けると、繁華街にあるラーメン店に連れて行ってくれた。

「色気はないけど、こんな場所しか開いてないから。ラーメンは好きか?」

繁華街から入ってすぐの小さなラーメン店の前で立ち止まる。
赤いのれんから見える店内は、カウンターが10席程と、テーブル席が3席あった。
客も4人ほどいる。
ほのかに脂の匂いが漂ってきて、急に食欲が沸いてきた。

「私、ラーメン大好きです」

昼休憩から、ずっと何も口にしていないのだ。
お腹が鳴りそうになり、意識的に力を入れる。

「それなら良かった。ここ、けっこう美味しいんだよ」

敦哉さんの後について店内に入ると、テーブル席へ座ったのだった。

「で?愛来は何に煮詰まってるんだ?」

向かいの敦哉さんは、オーダーより先にそう言ったのだった。
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