恋人を振り向かせる方法
「えっ?」
だけど、私はというとラーメンを食べる気満々で、さっそくメニューを眺めていた。
そんな時に質問をされたのだから、ほとんど不意打ちだ。
今の私は、どれほどマヌケな顔をしているだろう。
「いや、いいんだ。食べて元気になるなら、それがいいもんな」
笑いを堪える様に顔を歪めた敦哉さんは、同じ様にメニューへ目をやった。
ようやく、自分が間の抜けた事をやっている事に気が付いたけれど、今さら弁解もない。
恥ずかしさを隠しつつ、ラーメンを注文するとあっという間に出てきたのだった。
そのラーメンは野菜がたっぷりの味噌ラーメンで、敦哉さんも同じ物を頼んでいる。
「美味しそー」
ただのラーメンと言ってしまえばそれまでだけど、今の私には贅沢に見えるくらいだ。
「だろ?本当に美味しいんだよ。冷める前に食べよう」
「はい!」
敦哉さんに促されラーメンをすすると、生き返る心地がする。
疲れも吹っ飛ぶ感じだ。
だからか、少し解放的な気分になる。
「敦哉さん、気にかけてくれてありがとうございます。私、仕事に対して中途半端なんで、それに煮詰まってたんです」
「中途半端?」
「そうなんです。私、正直言って仕事なんて、そこそこやれれば良くて•••」
そんな私の考え方は、仕事が出来る敦哉さんには、ふざけている様に見えるかもしれない。
軽蔑される不安もあるけれど、思わず口にしたのは、敦哉さんなら理解してくれるかもしれないという淡い期待から。
すると、敦哉さんは眉を下げて微笑んだのだった。
それは、どこか呆れている様にも見える。
「そっか。考え方は人それぞれだからな。だけど、愛来はどうしてそんな風に思うんだ?」
敦哉さんから理解を示されて、それが嬉しかった。
嬉しいと思うと、口は止まらず続けていたのだった。
「結婚•••。結婚に憧れてるんです。だから、仕事はそこそこで良くて」
どんな反応をされるだろうか。
恐る恐る表情を確認すると、一瞬目を丸くした敦哉さんは、吹き出す様に笑ったのだった。
「正直なんだな。でも、愛来は女性なんだし、それはそれでいいんじゃないか?」
「敦哉さん、分かってくれるんですか?」
顔を明るくした私に、敦哉さんは笑顔で小さく頷いた。
やっぱり、敦哉さんは私の心を掴む人だ。
接すれば接するほど、恋心は加速する。
「じゃあ、例えば愛来の好きな人はどんな人?」
「えっ?」
この質問は、悔しいくらいに私を知ってくれているから出た質問。
恋人がいないのを知ってるからこそ、聞いてきたに違いない。
答えは簡単。
私の好きな人は敦哉さんなのだから。
それを言ったらどんな反応をするだろうか。
あれこれ考えれば絶対に言えないはずなのに、深く考える事が苦手な私は、次の瞬間には言っていたのだった。
「私が好きな人は敦哉さんです」