恋人を振り向かせる方法


瞬きをする度にこぼれる涙。
その涙を前に、海流は動揺を見せた。

「何で、泣くんだよ」

こぼれる涙を優しく拭いながら、海流は私の顔を覗き込む。

「分かんない。ただ、海流が怖くて」

そう言うと、海流は痛いくらいに強く抱きしめてきたのだった。

「何で怖がるんだよ。俺は怖くなんかない。大きな声を上げたから、ビックリしたのか?だったら、ごめん。だけど、それだけ愛来が好きなんだ。分かってくれよ」

そして、海流は再び私の唇を塞ぐ。
今度は軽く触れるものではない。
ほとんど強引に、舌を口の中に入れてきた。

「ん•••。海流•••」

懐かしい海流のキス。
強引な感じも、私を感じさせるより自分が感じるキスをするところも、何も変わっていない。
そして抱きしめる手は、私の体を撫で回していた。
敦哉さんの顔が脳裏をよぎるのに、海流の強引さに負けてしまいそうだ。

「愛来、舌を絡めて」

海流の言葉に、私は一気に付き合っている頃に戻ってしまった。
海流が好きで好きで、仕方なかったあの頃に。

「海流•••」

両手を海流の体に回し、リクエスト通りに舌を絡ませた。
荒い呼吸と、いやらしいくらいに鈍い音を立てるキスに、このまま抱かれてもいいと思ってしまう。
やがて、海流の手が服の下に入り胸へと伸びた時、思わず甘い声を漏らしてしまった。
もうダメだ。
このまま、海流に抱かれてしまいたい。
そう思うくらい吹っ飛んだ理性は、その直後のメール着信音ですぐに戻ってきたのだった。

「まさか、また敦哉さんか?」

呼吸を乱しながら、海流は苦笑いを浮かべている。

「えっと•••、うん。敦哉さんだ」

急いで確認をすると、海流の言う通り敦哉さんからだった。

『迎えに行くから、もう帰ってこい』

その内容に、まるで見られている様な感覚が襲い、罪悪感で一杯になる。

「ふぅん。結構、敦哉さんて愛来に本気なのかもな」

メールを覗き込んだ海流が、ため息をつく。

「だけど、俺は諦めるつもりなんてない。愛来を利用したのは事実だもんな。そんな奴に、アッサリと負けられねえ」

海流は口角を少し上げると、また唇を重ねた。

「敦哉さんが来るまでの間、キスしていようぜ。バレない様に、敦哉さんが来たら姿をちゃんと消すから」

その提案を、拒むことが出来なかった。
海流のキスを受け入れる事だって、中途半端な気持ちだ。
敦哉さんと別れて、海流とやり直すつもりもない。
それなのにキスを受け入れたのは、思い出が蘇ったから。
確かにあの頃は、海流とのキスが最高に幸せだった。
その時の気持ちに、今はどっぷりと浸かってしまっていたのだった。
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