恋人を振り向かせる方法


話した•••?
呆然とする私に、三人は高笑いをしている。

「フラれたらザマね。楽しい報告を待ってるから。目障りだから、とっとと出て行って」

押し出される様に化粧室を出ると、廊下で立ち尽くしてしまった。
まさか、敦哉さんは知っていたというのか。
だから、昨日もおとといも、私に連絡をしてきたのか?

「じゃあ、何で黙ってるのよ•••」

心臓が痛いくらいに、鼓動が速まっている。
敦哉さんは知っていた。
その言葉が、頭の中を回っていた時、

「愛来!」

亜由美に声をかけられたのだった。
振り向くと、青ざめた顔でこちらに走ってくる。

「ちょっと愛来に、聞きたい事があるんだけど」

その慌てぶりに、噂を聞いたのだろうと確信した。

「そっちはダメ。人がいる」

化粧室へ連れて行こうとした亜由美の手を引っ張り、給湯室へ入ったのだった。
運良く、ここには人がいない。

「何?聞きたい事って」

覚悟を決めて亜由美に尋ねると、亜由美は険しい顔を向けた。

「ゆうべ一緒にいた人は誰?敦哉さんじゃないよね?愛来、誰といたの?」

「えっ?」

まさか、ゆうべ海流と一緒にいたところを亜由美に見られていたのか。
予想外の質問で青ざめる私に、亜由美は感情を抑えて続けた。

「私、愛来を信じたい。だけど、おとといも男の人と一緒にいたって、噂になってるの。愛来、あの人は一体誰なの?敦哉さんとは、うまくいってるんでしょ?」

やはり、亜由美の耳にも入っているのか。
それに加えて、ゆうべ海流と居たところを見られているのだから、ため息が漏れる。
海流が元カレだと話すべきか。
でももし話してしまうと、中途半端な事しか言えず、余計に話がややこしくなるかもしれない。
何せ、敦哉さんが御曹司だっていう事は会社では内緒だ。
かといって、こんなに心配している亜由美を誤魔化すのも心苦しい。
それならば、きちんと話さなければいけないのかもしれない。
覚悟を決めた私は、小さく深呼吸を一回して、口を開いたのだった。

「実は、噂になっている人と亜由美が見た人は同一人物で、私の元カレなの」

「元カレ?」

亜由美の顔が、一瞬にして強張った。
やはり、『元カレ』という言葉が効いたのだろうか。

「うん。ひょんなきっかけで再会して、話をしたっていうか•••」

さすがにキスをした事は言えない。
すると、亜由美の顔はさらに険しさを増し、私を睨んできたのだ。

「だからなんだ。愛来、その人とキスそてたよね?私、見たんだから」

「見た•••?」

海流とのキスを見た?
予想外の言葉に、呆然とする。

「敦哉さんね、噂を聞いても、みんなに愛来の事を庇ってたんだよ?愛来がそんな事をするはずないって」

「敦哉さんが?」

「そうだよ。それなのに、愛来は何してるの?無理矢理されたキスなら、愛来はどれくらい傷ついただろうって心配したのに、相手が元カレなら愛来の意思でしたんだよね?」

亜由美の厳しい口調に、私は返す言葉もなかった。
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