恋人を振り向かせる方法


どんな言い訳も、成り立つわけがない。
言葉を失う私に、亜由美は軽蔑した目を向けた。

「愛来、本当に最低ね。オフィスでも、かなり噂になり始めてるんだよ。覚悟していた方がいいんじゃない?」

冷たく言い放った亜由美は、給湯室を出て行った。
あの三人組になら、どんな事を言われても構わない。
だけど、亜由美に軽蔑されるのは、たまらなかった。
もしかして、親身になって話を聞いてくれるかも、そんなどこか甘い考えを持っていた私に、天罰が下ったのだと思う。
そして噂は、自分が思うよりずっと速いスピードで広まっていったのだった。
そして亜由美は、敦哉さんに私と海流とのキスを話したらしい。
それが分かったのは、敦哉さんに帰宅後、聞かれたから。
そこで私は、敦哉さんが海流とのキスを知ってしまったのだと分かったのだった。

「愛来、単刀直入に聞く。亜由美から聞いたけど、ゆうべは誰と何をしてたんだ?」

「あの•••、それは」

着替えもそぞろに、敦哉さんは私をベッドへ座らせた。
今さら誤魔化しても無駄だ。
敦哉さんは、亜由美から聞いて私に質問をしているのだから。
だけど、敦哉さんを前にして、真実を話す勇気がなかった。
どうしても話せないまま俯くこと数分、敦哉さんがため息を一つつき、言ったのだった。

「違うんだろ?」

「えっ?違う?」

「違うんだよな?亜由美が言った事は間違いなんだろ?」

真っ直ぐ私を見つめる敦哉さんの瞳は、少し潤んでいる。
その瞳を見ていると、ますます本当の事など話せなかった。

「それは•••」

一体、どう答えたらいいのだろう。
敦哉さんは、何を思っているのだろう。
すると、言葉が続かない私を、敦哉さんは優しく抱きしめたのだった。

「愛来が違うというなら信じる。違うんだろ?『うん』て言えよ」

それは、痛々しいくらいの敦哉さんの優しさに思えて、私の方が涙を流してしまった。

「どうして?どうして、敦哉さんはそんなに優しいの?」

付き合うキッカケがどうとか、本当は奈子さんが好きなのではないかとか、それを考えるのもバカバカしくなってくる。
目の前の敦哉さんは、こんなにも優しいのだから。

「優しいわけじゃないよ。ただ愛来の言葉を信じたいだけだ。だから、言えって。『うん』て」

「うん」

罪悪感でいっぱいで、心の中では『ごめんなさい』を、何度も繰り返していた。
敦哉さんが、無理矢理信じようとしてくれているのが分かったから。
だから、私はそれに応えた。
もちろん、真実は違う。
海流とキスをした。
そして、それに感じていた。
その裏切り行為が、こんなにも胸の痛くなるものだとは、今になってようやく知ったのだった。
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