恋人を振り向かせる方法


海流の言葉は間違いなく、私の心へ届いた。
放っておけないという言葉は、孤独を感じる私にとって、何より心強いものだから。

「愛来って意外と意固地だろ?俺と別れる時だって、絶対に気持ちを曲げなかったもんな。そんな愛来が、敦哉さんの事情を知った上で付き合ってるんだから、俺がどんなに邪魔をしても無駄だろうなって分かってたんだ」

「うん•••」

やっぱり海流は私をよく分かっている。
付き合っていた頃、置いてけぼりで寂しさばかりを感じていたけれど、本当は違っていたのかもしれない。
海流は、ずっと私を見てくれていた。
それはきっと、今でも一緒だ。

「だけど愛来。敦哉さんがいくら好きな人でも、他の女と寝たんだ。恋人関係を続けていくのは、やっぱり変だと思う。俺は愛来を今でも好きな男として、それは絶対に譲れない意見だ」

そう言われてしまえば、反論する余地はない。
想う事は自由だとしても、恋人関係を続けるには違和感のある状況だ。
それに、私が敦哉さんをフラなければ、敦哉さんはずっと、私に縛り付けられているままなのだろうか。
敦哉さんなりに、私を利用して付き合った事に罪悪感を感じているならば、敦哉さんからは別れを切り出せないかもしれない。

「私から、さようならを言うべきなのかな?」

「愛来•••」

涙が溢れる私を、海流は優しく抱きしめた。

「何も、今すぐ答えを出さなくていいじゃないか。少し眠ろう。頭がスッキリしたら、新しい事を考えられるよ」

「うん」

海流の温もりは、私を安心させるには充分過ぎて、あっという間に眠りに落ちたのだった。
そして、どれくらい眠っていたのか。
部屋のドアが、けたたましく叩かれる音で目を覚ましたのだった。

「ったく、誰だよ」

ガウンを羽織った海流が、けだるそうにドアに向かう。
私も朦朧としながら、その姿を見ていた。
時計を確認すると、眠ってから1時間半が経っている。

「はーい。誰だよ」

海流が鍵を開けたと同時に、ドアが乱暴に開かれたのだった。

「愛来!愛来、いるんだろ?」

敦哉さんの声がしたかと思うと、部屋へ飛び込んでくる姿が見える。
お陰で朦朧としていた頭は、すっかり覚めてしまった。

「あ、敦哉さん•••」

ベッドの中で素肌を隠す私は、呆然とする敦哉さんと目が合った。
どこからどう見ても、この光景は言い訳が立たない。

「愛来、まさか•••」

言葉が続かない敦哉さんに、海流がため息混じりに口を開く。

「あのさ、言っとくけど俺たち」

咄嗟に否定されると分かった私は、慌てて口を挟んだのだった。

「敦哉さんの想像通りよ。私、海流と寝たの」
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