恋人を振り向かせる方法


奈子さんと家出という言葉が繋がらない。
だって、敦哉さんとも想い合えて幸せなはずなのに。

「何でなの?それに、本当に家出なわけ?」

「部屋に置き手紙があったらしい。中身は高弘づてに聞いた限りでは、相当切羽詰まった内容らしくて。それで、心当たりがないか電話がかかってきたんだけど」

切羽詰まった内容とは、どんなものなのだろう。
理由が全く見当たらない。
考え込む私に、海流が声をかけてきた。

「探しに行くか?敦哉さんも、探してるみたいだから」

「うん。探す」

奈子さん、どうして敦哉さんに心配かけるのよ。
きっと今ごろ、心配して探しているはず。
必死に探しているはず。

「よし!行くぞ」

私の手を取った海流は、店の中を掻き分けて飛び出して行った。
いつだって行動的な海流は、私には眩しく映る。
こんな状態になっても何とか頑張れるのは、海流が側にいてくれるからだ。

「ありがとう、海流」

走る後ろ姿に言葉をかけると、海流は振り向く事なく応えた。

「礼を言われる様な事はしてない」

自然と笑みがこぼれて、海流に引っ張られるまま走ると、中心部の通りに着いたのだった。

「確か、高弘はこの辺から電話してたんだけどな」

二人で辺りを見回していると、

「海流に、愛来!」

高弘さんの声がして振り向くと、敦哉さんも立っていた。
敦哉さんは、相当探したのだろう。
息を切らせて、憔悴しきっている。

「二人一緒だったのか」

高弘さんの言葉を聞き流した海流は、高弘さんと敦哉さんを見比べた。

「俺たちも手伝うよ。心当たりは探したのか?」

すると、敦哉さんは頷いた。

「海も探したし、奈子が行きそうな場所は全部探したんだけど•••」

海とは、高弘さんたち三人との思い出の場所のところか。
そこにもいないとなると、どこなのだろう。
まるで心当たりはないけれど、少しでも役に立ちたい。

「敦哉さん、高弘さん、他に心当たりは?」

そう聞くと、敦哉さんは息を乱しながら私に言った。

「愛来、ありがとう。気持ちだけ受け取るよ。だけど、愛来は帰った方がいい。もう夜も遅いし、危ないから」

すると、私より先に口を開いたのは高弘さんだった。

「子供じゃないんだからさ、手伝って貰ったら?それとも、奈子の家出の理由を知られるのが嫌か?こんな時にも、お前は誰を守ろうとしてるんだよ」

私には、高弘さんの言葉の意味が全く分からず、呆然とするしかない。
敦哉さんはというと、唇を噛み締めている。
きっと、敦哉さんには通じているのだろう。

「一つ心当たりがあるなら、奈子の実家の別邸だ。たぶん、あそこだと思う。行こうぜ」

重苦しい空気の中、高弘さんは私たちを促した。
さっきの言葉の意味が気になるところだけど、今はそれどころじゃない。
高弘さん運転の車に乗り込むと、その別邸へと向かったのだった。
< 80 / 93 >

この作品をシェア

pagetop