君の温もりを知る

あの笑顔が消えない


【side*Mashiro Yoshihara】

あれは、高校に入学したての頃の話だ。


「バスケ部、バスケ部にどうぞー」

「いやいや、男ならサッカーでしょ!」

「野球部で一緒に甲子園!」


人で道が塞がるくらいの部活勧誘。

もともと体の弱かった私は、
小学校、中学校と吹奏楽に携わって
いたものの、よく体調を崩して
練習を休んでいた。

だから、高校では部活として
やっていくつもりはなかったんだけど、

あの日あの時、あの場所で。

宮野先輩が声をかけてくれたことで
私の気持ちは、一気に揺らいだ。


「お!お前…音楽好きそうな顔だな」


ベタな桜の木の下で、人に酔った私が
気を休めていたところに、
後に思いを寄せる『彼』がやって来た。


「な?好きだろ?そうなんだろ?」

「は、はあ…好き…ですよ?」

「だよな!やっぱ音楽はいいよな!
ならさあ、今から俺と音楽室へ!」


今思えば、全て計算だったんじゃ…。

なんて思うほどに完璧な流れで
私は断れるはずもなく、音楽室へ行った。


「さ!ここが音楽室だ!冷暖房完備!
冷蔵庫だってある!最高だろ?」

「は、はあ…」


三階まで上りきったかと思えば、
すぐに音楽室へ入ろうとした先輩だったが
不意に何かを思い出したかのように
ピタッと動きを止めてしまった。


「な、な……」


(私、なにかしたかな…?)

そう思ってわたわたする私の気持ちを
知ってか知らずか、先輩は
バッと効果音でも付きそうなくらいに
勢いよく振り向いて、言った。


「忘れてた!俺、宮野太一!お前は?」

「あ…吉原、真白です」

「吉原……ましろ……?」


それまできびきび動いていた先輩の動きが
その一瞬で、止まった。


「え、あの…先輩……?」

「あ、ごめん。さ!音楽室へ!」


まるで執事のする礼のような
華麗な仕草で、彼は私を招き入れた。
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