君の温もりを知る

「ねえねえ、真白ちゃんは
何の楽器を吹いてたの?木管?金管?」

「もちろん、木管よね?」

「…おいお前ら、俺が連れて来たんだから
俺に全部任せとけよ」


音楽室に入るなり、驚くべき早さで
周りを囲まれたものの、
宮野の先輩が腕を引いて助けてくれて
やっとのことで抜け出す。

やっぱり、大勢の人は苦手だ。


「吉原は…雰囲気的に金管だろ?」


気分が悪い私を察してか、
自然な流れで椅子に座らされた。

そんな私の目線に合わせて屈んで
「な?」って可愛く聞いてくる先輩に
私の心はギュッと締め付けられた。


「…ホルン、です」

「ホルン?!やっぱ金管か!」


そっかあ…いいよな金管!俺もだよ。

嬉しそうに笑って、いつの間に
持って来たのか、
愛用らしいトランペットのピストンを
カタカタ鳴らした。

楽器を持つ人は
ロータリーなりピストンなり
無駄に動かす癖のある人はいくらでも
見たことがあるが、ここまで
様になる人を見るのは初めてだった。

無論私は、数秒見惚れてしまった。


「さあさ!早速吹いてみて!」


その間にまたもや相当な早さで
ホルンを持ち出してきた先輩は、
たった今水で洗ったらしいマウスピースを
タオルで拭きながらやって来た。

それらを受け取り、言われたとおり
早速息を吹き込む。

まずは軽めの音出しから。

徐々に、管も温まったら
大好きな"あの曲"を少しだけ。

心地よく吹く途中にふと先輩を見上げれば
先程音楽室に入る直前そうだったように、
先輩は目を見開いて、固まっていた。


「、先輩…?」


吹くのを止めて、先輩に問いかける。


「お前、その曲……」

「ああ、この曲ですか?私も曲名は
知らないんですけどね…。
昔からすごく好きな曲なんです」

「そっか…」


ーーー俺も、好きだよ。

そう慈愛深く呟いた先輩は、
何故かとてもとても嬉しそうだった。


その日、入部届けを受け取った私は
翌日には迷いなくそれを提出した。
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