君の温もりを知る

入部して、一ヶ月が経った頃だった。

この時期、吹奏楽部には特に行事もなく
夏のコンクールを大きな目標としながら
夏の校内公演への準備と、
たまにある地域行事への参加諸々。

つまり、中だるみしやすい時期だった。

そんな時期に、基礎中の基礎である
ロングトーンを全体でしていた時。

オクターブの中盤、まだまだ
始まったばかりで、いつもなら全然
きつくもなんともないはずなのに、

その日は、辛くてしょうがなかった。


「…吉原、お前汗……」


配置的にホルンの後ろはトランペット。

後ろから見ていた宮野先輩は、
私の異変に気付いたいたようで
吹くのを止めて私に声をかけていた。

が、そんな気遣いにも息を吹き込むのに
精一杯な私の耳に入ることはなく…


ーートン


前へは倒れなかったものの、横にいた
田原先輩の肩に体重をかけて
私は、意識を失った。


「おい、吉原!吉原!」


薄れる意識の中、先輩の声が聞こえた。


「田原、……俺が連れてく」


(ああ、またか…)

高校に入ってからはなかったから、
油断してしまっていたのかもしれない。

私は、何一つ成長できてはいないのか。
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