君の温もりを知る

待ち合わせは駅前の夜には綺麗な
イルミネーションが光り輝く木の下の
ベンチだ。

本当は今日は桃ちゃんと映画に
行くという前々からの約束があったけど
三日ある金管アンサンブル公演の
初日である今日しかチケットが
取れなかったのがわかると、
今度埋め合わせしてくれればいい、と
言ってすぐに私を後押ししてくれた。

そういう訳もあって、私は
今こうしてここで先輩を待っている。

明日との朝の時間があっても、
まだ約束の時間まではまだ余裕があった。


「お!吉原、待たせたか?」

「…いえ、ちょっと前に来ただけですよ。
先輩、おはようございます」

「おう、おはよ。じゃ、ちょっと歩くか」


少ししてやって来た先輩は、ラフな格好が
とても似合っていた。

いっぱいしてた緊張も、午前中いっぱい
先輩と街を歩いて、多少緩んだと思う。

CDショップや楽器屋さん、吹奏楽部
ならではの話もたくさんしたし、
雑貨屋さんでも普段できないような
先輩の新たな面に触れるお話しも
たくさんした。


「吉原、決まった?」

「はい。私、ナポリタンにします」

「お!いいな!俺は…パエリアにする」


時間はあっという間にすぎ、お昼を
回って少しした今、私達は洋食屋さんで
席を囲んでいた。


「…吉原、私服可愛いな」

「…な!そんなお世辞はいいですよ!」

「待てよ俺、お世辞とか言わねえよ」

「そういう人に限ってですね…」

「信用ねえなあ…俺」


(…やばいやばい!怒ったかな……?)

やっぱり冗談にのるべきだった?
『制服も似合ってるでしょ』とか
冗談で返すべきだった?

もう、どうすればいいかわかんない。

そのままご飯を食べるときも
ろくな会話もなくて、本当に涙でも
でそうになったとき。


「ーーーねえ、やっぱり太一くんじゃん」

「ああ!本当!太一くんやっほー!」

「おう、奇遇じゃん、お前ら」


近くで知り合いであると正確に確認した
女の人達が、先輩に駆け寄って来た。

始めは先輩しか視野にない女の人達は
当然すぐに私にも気付くわけで。


「あら、妹さん?」

「ん?ちげえよ、部活の後輩」

「あ、そうなの?でもよかった。
彼女ってわけじゃないのね!部活で
買い出し?ご苦労様」

「あはは、彼女なわけないでしょ。
太一くんがまさか…」


その言葉の続きを聞く前に。


「…わりい、河田。俺ら三時から
外せない用事があるんだわ。先出る」


立ち上がった先輩は、伝票を片手に
私の腕を引いて足早に歩きだした。
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