君の温もりを知る

どんな道を通ったかなんてわからない。

普段あれだけにこにこ笑顔で
元気もりもり!って感じの先輩が
ここまで無言で私の腕を痛いほど
強くつかんで歩くのは、
兎に角不安で不安でしょうがなかった。

その永遠にも感じる時間が
ようやく終わって、噴水のある公園の
ベンチに腰掛けて一息ついてから
先輩が口を開いた。


「……ごめん、な」

「…へ?」

「気分悪くしただろ?あいつらには
今度学校で会ったときに言っとく」

「いや、別に私は…」

「いいんだよ。俺がムカついただけだし」

「…だって、私……」


本当に、先輩の彼女じゃないんだし。


「ん?どした?」

「い、いや…なんでも。それより、
さっきの会計、先輩に払ってもらったの
今お返しします」

「いいの、あいつらが来なくても
俺が払うつもりだったし」

「でも…悪いですよ…」

「もともと俺が無理言って誘ったんだし?
今日くらい俺に格好つけさせてくれよ」


なんて自然体で言ってのける先輩は
いつだって通常運転でかっこいい。

さっきまでの話しかけづらい雰囲気は
一気に払拭されてしまったようで。


「じゃあ、そろそろ行くか…」


先輩がそう立ち上がったとき。


「真白お姉ちゃん!」


元気な声が聞こえたと思い、
周りを見渡せば下から足をぽんぽんと
叩かれ、こちらを見上げるその目と
視線がバッチリ合う。

(…あ、この前の……!)


「椿くん…!」

「…吉原、誰?」

「山本椿くん。この前…」

「前にね、姉ちゃんとお兄ちゃんが
僕が車にぶつかっちゃいそうなのを
助けてくれたんだよ!」


かっこよかったんだよ!

そう言って笑うのは、彼が言うとおり
あの土曜日に明日が事故寸前なのを
助けた男の子、山本椿くん。

私は正直何もしていないんだけれど。

この前椿くんのお母さんがお礼にと
私までご飯に誘ってくれて以来だ。


「今日はお兄ちゃんは?」

「あ、ええと…」

「あれ、吉原兄弟いたっけ?」

「いや、いないんですけど」

「じゃあ、誰?」

「…明日です。その時たまたま一緒で」

「ねえねえ、お兄ちゃんは?」

「あのね、今日はお兄ちゃんいないの」


そう言えば、あからさまに残念そうな
顔をした椿くんを見て、
先輩は満面の笑顔で声を掛ける。


「じゃあ、代わりにこの太一兄ちゃんが
遊んでやるよ!行くぞ椿!」


先輩が軽々と椿くんを肩に担いで
公園の遊具の所へと走って行ったかと
思うと、すぐに仲良く遊んでいた。

その様子を、そのまま見ていると


「あ!ひな先生!」


椿くんが唐突に声を張ったかと思うと、
公園の入り口から、エプロンをした
若い女の人がゆっくりと歩いて来ていた。
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