もし風見鶏が振り向いたならこの世界は違って見えるのだろうか? 【短編】
「なぁ、もうちょっとコマシな場所あったやろ?」

と、不服そうに言いながらも
目の前に置かれた白い皿の中身を
綺麗に平らげていく陽平。

「ここ、本当に良いの?
周り、スーツ族だらけだけど……。」

僕らは異人館を後にして
遅めのランチを取っていた。

昼時を外してはいるものの、
見回してみても
回りはスーツにネクタイ姿の
サラリーマンしかおらず
常にスタイリッシュな万由利は兎も角
草臥れたジーンズに汚れたスニーカーを
履いているのは僕と神山だけだった。

「大丈夫。市の職員用の食堂だけど
一般人も利用できるのよ。
地元民なら、みな知っとうよ。」

と、甲高いよく通る声で万由利が言った。
それでもおどおどとしている僕を見て

「大体、あんたらみたいな貧乏学生に
北野のお洒落な店で
食べて支払えるお金がどこにあるのよ。
380円のここのカレーライスが妥当でしょ?」

「ははぁ、ごもっとも。」

と、大袈裟に言うと
神山は水を汲みに立ち上がった。

「ーーー万由利は良かったの?
お洒落な店で食べたかったんじゃないの?」

貧乏学生の僕らとは違って
万由利の実家は会社を経営している。
大阪市内で僕と神山同様
一人暮らしをしているけれど
その生活レベルは明らかに高いものだった。

なので、市役所の食堂に
連れて来られたのも
僕にとってはかなり意外な出来事だった。

「ああ、ないない。
ああいう所は好きな人と
二人きりで行きたいわ。」

「それって……デート?
えっ、彼氏出来たの?」

「出来てないよ。
でも……気になる人って言うか……そのぉ……」

珍しく歯切れの悪い万由利に

「元カレに気ぃ使ってんのか?
万由利らしくないなぁ。
お前もそう思うやろ?」

と、コップに水を
たっぷり汲んで帰ってきた神山に
急に話を振られて僕は
残りのカレーをどんどん口に運んだ。
何も話さなくても良いように。

そうーーー

万由利と神山は以前付き合っていた。

と、言ってもさほど長くはなかったけど。

ほんの二ヶ月くらいだっただろうか。

付き合ったきっかけも
別れた原因も今一、
僕はよく分からない。

ただ、一度だけ神山が一瞬、
真面目な顔して

「あいつは結局、
俺じゃなくてもええんやと思うわ。」

そう言っただけだった。

僕はそれ以上、
何も聞くことができないでいた。

僕はその時、
明らかに浮わついた気持ちで
その話を聞いていたからだ。

何故なら、
万由利に密かに好意を寄せる僕にとって
二人の別れ話は朗報だったからだ。






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