唯一の涙

周りが騒がし過ぎて、二人が話していることは断片的にしか分からなかった。
何を話してるんだろう。



「何なにぃ……あぁ」



「ひゃっ‼‼⁉」



今度は私の頭に顎を乗せてくる白石先輩。
さっきと場所は違うけども……っ‼‼



「い"っ"……!?」



頭突きで攻撃。
どうやら先輩は舌を噛んだらしく、涙目だ。



やり過ぎちゃったかな?



「白石先輩、あの二人……」



話題を逸らすかのように、先輩のシャツの裾を引っ張った。
眼で水野先輩と石神先輩を指すと、白石先輩も同じように二人を見る。



白石先輩は一瞬眼を細めたかと思うと、直ぐにいつもの戯けた顔になった。
何かが、胸に突っかかる。



「何を話してるのか、先輩は知っているんですか?」



「……」



白石先輩は膝を折って、私と目線を合わせた。
変な緊張感。……足が、小刻みに震える。



「知っとったら、何なん?あの二人の問題を、河原ちゃんが聞く必要あんのん?」



「……」



何も、言えなかった。
いつもと変わらない先輩の笑顔なのに、いつもと変わらない先輩の声色なのに……。



どうして、こんなにも先輩が怖いんだろう。





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