My Precious ~愛する人よ~ Ⅰ
「――いや。ただ川を眺めていただけだ」
もう一度深く微笑んで、重い腰を持ち上げた
途端に視線が高くなり、見渡す限りの美しい景色が目の前に広がる
その足元には、透き通った水が惜しげも無く流れている
宮殿のすぐ側を流れる、この小さな川
フラフラと歩いていたら、偶然見つけたんだ
「その花…もしかして、父に?」
溢れんばかりの太陽に目を細めながら、目の前のグレイスに問う
すると、俺の足並みと合わせて歩き出したグレイスが柔らかく微笑んで頷いた
「えぇ。とても香りのいい花なので」
「へぇ。どれ?」
グレイスの言葉に促されて、彼女が持っていた紫色の花に顔を近づける
すると、胸いっぱいに甘い花の香りが広がった
「本当だ」
そう言った俺に、グレイスは嬉しそうに笑った