144のカウントダウン
5日目

第15話〜理央の家〜



「おはよ。」

「ん。あがって。」

今日はなぜだか学校が休み。
たしか、学校の創立記念日?だったはず。

そこで、理央の家で勉強することに!

「ちょっと、なに勝手に人あげてんのぉ~?」

奥の方で怒鳴るような声がする。

「え、アタシいいの?家ん中入って…。」

「あー、あれ姉貴。ほっといていいから。」

すると、奥から理央のお姉さんが出てきた。

「お~!久しぶりね~。」

知ってはいたが、やっぱり美人だ。
黒髪のつややかなストレートヘア。瞳は大きく、口元は軽く微笑んでいる。

「あ、お久しぶりです…。」

彼氏の姉、と思うとどうしても固くなってしまう。

「わー!何年振りだろ?」

理央の姉とは、アタシの姉の友達とゆう事で知り合った。
当時アタシの姉は小学5年生でバンドの結成を将来の夢として語っていた。そして、同じ夢をもつ理央の姉 藤沢麗華(ふじさわ れいか)と仲良くなり、家も近かったため、よく一緒に遊んでいた。
そして、ある日アタシの家に麗華さんと…理央が遊びに来た。
そこでアタシと理央は知り合ったわけだ。(当時6歳)

「姉貴、玄関で話し込むなよ。」

「あ~、そっかあ!じゃ、入って!」

「あ、お邪魔します…!」

理央の家に来たのはかなり久しぶりだ。
リビングは、だれの好みなのか、モダンな部屋だ。
テーブルは透明なガラスで、ソファーは茶。カーペットは白い刺繍交じりの黒。
壁紙は無難な白である。

「あ、ポテチあるよ~!食べる?」

「あ、いえ。だいじょうぶです。」

「俺、食べる。」

「え~…。わたしゎ咲来ちゃんに聞いたのに!」

兄弟らしい兄弟だ。ほほえましい。

「にしても、咲来ちゃんさ。大人になったよね~。」

「え?そうですか?」

「…。」

「なんかさ、敬語とか使っちゃって。タメでいいのに。」

「あ、なんか慣れないもんで…。」

あ~。なんか、話しが止まらないんですけど…。
ムムム…。

「姉貴、そろそろ部屋行きたいんだけど。」

あ、理央!お姉さんには悪いけど、ナイス!

「え?二人っきりになる感じ?」

「…。」

「え?そうゆうわけでは―。」

ちょい!そうゆうコト聞かないでくれえ!

「おい、咲来。行こうぜ。」

「あ、うん。」

お姉さんのコト、無視しちゃったかな?

理央の部屋はとってスタイリッシュな感じだった。
壁紙は白と黒の縦じまですごく大人っぽい。デスクは肌触りがさらさらした黒いのでチェアは赤いおしゃれなヤツだ。ベットは灰色。観葉植物の木まである。
アタシのイメージだが、すごく理央っぽい!

「理央の家の部屋って、すごいよね。」

「なにが?」

「なんかさ、雑誌に載ってる部屋を丸ごと買ってきたみたい。」

「あー。それは、親が。」

「え?」

「よく知らないけど、父も母も雑誌で家具紹介するやつあるだろ?」

「うん。」

「あーゆーのの配置やる仕事してるから。」

「へー!」

知らなかった!
でも、新しい発見!
理央のコトは、結構しってるつもりだったんだけど。

「んで、なにする?」

「え?勉強するんじゃないの?」

「・・・・・・・・。」

あれ、アタシ変なこと言ったかな?

すると理央はいきなり部屋のドアを思いっきり開いた。

「姉貴…。」

そこにはなぜか、お姉さんがいた。

「おぅ?あ、理央。どうしたの?ポテチ持ってきたんだけど。」

アタシでさえ、何か怪しいと感づくのだから。理央にはきっと、全てお見通しなのだろう。

「サンキュ…。でも、盗み聞きはよくないと思うぜ?」

盗み聞き?

「え?そんな事してないって。ヤだなあ―。」

「うそつけっ!片手の紙コップはなんなんだよ!」

「え、それわぁ、」

「いいか?盗聴ってゆうのは犯罪だ!もう絶対やめろ!」

―バタンッ!

理央はちゃっかりポテチを受け取って、乱暴にドアを閉めた。

「食べる?」

「あ、うん…。」

ぱり、ぽり、ぼりぼり、、、
ポテチを食べる音だけがこだます。
気まずい。
すると、理央の部屋で一番印象的なこげ茶の本棚が目に留まった。
天井に着くほど高くて、びっしりと本が詰まってる。
背表紙には…
「密室の謎」「ホームズの謎解き」「完全犯罪」・・・
怪しい。奇妙な本ばかりが並ぶ。

「り、理央ってコウユウ本好きなの?」

「あ?…ん。まあな。」

「へえ。面白い?」

「うん。最高だぜ?」

理央は立ち上がって、一冊の本を取る。
そしてアタシに差し出す。『読めば?』と言いたげだ。

「うん。」

アタシは受け取る。
題名は・・・「ナゾトキ。」とてもストレートだ。
パラパラとめくってみると

「う・・・・・・・・。」

「?」

理央は不思議そうにアタシを見つめるが、アタシはめまいがしていた。
字。字。字。字・・・・・。とっても小っちゃくて。細かくて。漢字ばかりだ。
理央って、こんな本よんでたの!?
いつも、眺めているだけのようなスピードで本をめくっていたから、字の大きいヤツかと思ってたのに。

気づけば、理央は別の本を読んでいた。
ちょっと覗いてみると、これもやはり・・・・・字。

あれ、理央って・・・・。

「メガネ使ってたっけ?もしかして伊達?」

「あ?」

フレームは厚い、黒縁メガネでいかにも伊達っぽかったが・・・。

「度はちゃんと入ってるよ。」

「ふ~ぅん?」

ここで、ひとつ疑問が浮かぶ。
これで理央は目が悪いとゆうコトがわかった。
そして、学校で目を細めていたのは目が見えずらいためであった。
しかし、どうして学校ではメガネをかけていないのか?

学校では、女子から、先輩からも「目つきがむかつく。」などといわれているのである。
いっそメガネをかけてしまえばいいのではないか?そうすれば「むかつく目つき」という欠点は解消されるではないか。

「似合ってるのに…。」

色々な疑問を込めた、アタシの何気ないつぶやきに、理央は食いついた。

「え?なにが???」

「え…?そのメガネ!理央にすっごく似合ってるよ!」

「・・・・。」

理央は無言のままだ。
アタシは続けた。

「なんで学校にかけてこないの?」

「・・・・。」

理央はちょっと照れくさそうにそっぽを向いた。
窓から風が入り込み。カーテンが膨らむ。
その隙間から入った日光のせいで理央の表情は見えない。


そして、表情を見せないまま。ポツリといったのだった――。

「独り占めしてもらいたい…から……?」

自分のほほが赤く染まってゆくのがわかる。


~わー!理央が!理央が!


「咲来が思ってるより、俺って女々しいかな。」

「うん・・・。」

理央がすごい愛しい!

「否定してくれよそこは・・・。」

「なんでよ?いいじゃない。アタシしか知らない理央だね?」

「・・・。」

「じゃあさ、理央はそのメガネ。ぜえ~ったい!学校に持ってきちゃだめだよ!」

自分でも何を求めてこんなことを言ってるのかわからない。
でも、無意識に本心が出た。のかもしれない。
ずっと前から、理央と一緒だけど。
アタシの知らない理央がたくさんあって、たくさん知れた。

「咲来・・・・。」

急に理央がマジメになる。
そして、顔をグイッと近づけてくる。

「今更、言ったって遅いかもしれないけど、俺は咲来が思ってるような奴じゃないと思う。」

「?」

急に・・・。猫のように、無防備に接近してきた理央に戸惑いながら
アタシは理央に目を合わせる。

メガネが知的に反射する―
「割と頑固だし。けっこう独占欲あるし。かなりあまのじゃくで――。」

理央は、急に自信をなくしたように目を伏せた。
現に、理央がここまで自分をけなすところを見たのは初めてだ。
アタシが知ってる理央は…
いつも冷静で、無表情。無愛想で、大人で。賢くて・・・・。

しかしアタシは、初めて聞いたコトなのだけれど、何とも思わなかった。
知らなかったはずの理央の内面を知れた。
けど『そんなの、今更じゃん!』って、笑ってみたい自分もいて・・・。

「知らなかったけど、知ってるよ!」

ポロリと出た言葉が『それ』だった。
理央は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに

「だと思った。良かった。」

と、微笑んで見せた。

アタシはちょっとつまらない気もした。
理央は今までと少し違うのに、アタシは理央に知り尽くされている。
嬉しいような。もどかしいような・・・。

「咲来、もういっこ・・・。」

「え・・・?」

理央の瞳はすぐ目の前にあった。

「俺は、お前が思う以上に。お前のコトを想ってるんだ・・・・・・・!」

さりげないながら、力のこもった声だ。

アタシは、目を静かに閉じる。
そして、愛するひとと。くちずけを交わす。

その瞬間は、時間が止まったようで。
夢のようにフワフワしてた。
でも、ちょっとだけ重みがあって。
テレパシーのように想いが通じるようだった。

「りお…?」

「ん?」

「大好き!」

アタシは理央みたいに、しっかり届くように伝えられない。
自分の思いを「どれだけ」と、伝えることはできない。
でも、理央ならわかってくれる。
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