花嫁指南学校

「ねえ、恵梨ちゃん。まあ、聞いてよ。私だってあいつのやったことは許せないよ。今だってあいつに会ったら一発ぶん殴ってやりたい気持ちになっちゃうかも。でもね、大人の女には心の余裕があるのよ」

「心の余裕?」

「うん。いつだったか、あなたがおたくの学校で教えている『婦女子の心得』っていう科目について話してくれたことがあったでしょ。その講義で先生が『賢夫人は夫の浮気の一度や二度は目をつむるものである』って説いていたわね。夫がよそでお遊びをしていても、妻が泰然と構えていればそのうち夫は帰ってくるという説だったわね。優二は私の夫じゃないけど私たちの関係にもその法則が当てはまると思うのよ。しばらく放っておいたら、あいつはブーメランのように私のもとへ戻ってきたのよ」

「まさしくブーメラン男ですね」

「そう、子どもみたいにわかりやすい人なのよ。あいつが戻ってきた理由も私にはわかるわよ。あいつは田舎の親に結婚するようせっつかれているから、あっちがダメならこっちに来ようってわけなのよ。ま、私にはあいつの両親に紹介しても恥ずかしくないバックグラウンドがあるからね。だから私も、いちいちもったいつけて接してみようと思っているの。女はできるだけ自分自身を価値ある女に見せ掛けるのが大事だって、おたくの先生も言ってたでしょう。今度は私がイニシアチブを握るんだからこれほど楽しいことはないわよ」

 おたくの先生とは「婦女子の心得」を担当する福芝女史のことを指している。

「はあ、それはそうですけど」

「大丈夫よ。あいつには執着せずに気楽に行くわよ。ひとたび三十を過ぎちゃったらね、二十九の時みたいに切羽詰った気持ちにはならないの。心に余裕が生まれるのよ。あいつのことが気に入ればそのまま進むし、気に食わなくなったらサヨナラするわ。他にもっと素敵な人が現れたら今度は私の方がそっちに乗りかえちゃってもいいし。でも、あいつがまた浮気をしようものなら黙っちゃいないわよ。たっぷりいじめてやるつもり」

 傍らの来宮は二人の女の遣り取りを聞いて苦笑している。
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