花嫁指南学校
 それ以来、田舎に住む祖母と離れ、恵梨沙は学園の学生寮で暮らしてきた。カメリア女学園での彼女の成績も常にトップクラスであった。主要な五教科以外の「婦女子の心得」や家庭科といった教科でも、ベストを尽くして良い成績を取ることを心掛けた。

 短大の二年になった今、恵梨沙も他の同級生のようにお見合いをすることになった。カメリアの学生にとってお見合いは、他校の学生にとっての就職活動に相当する。婚約が成立することは企業の内定を取るようなものなので、女子学生たちは必死で永久就職の口を探すのである。短大の最終学年に在籍している間に結婚相手が決まらない場合、一般の企業に就職することもできるし、その短大の上の専攻科という所にも進学できる。ただし、専攻科に残れるのは一年だけなので、残留組は最後の一年で身の振り方を決めなければいけない。結婚相手も就職先も決まらない学生はほとんどいない。二十一歳になるまでには皆身の振り方を決め、学び舎を巣立っていく。

 ウォリス・シンプソン夫人の話を聞くにつけ、自分には彼女のような魅力は無いのではなかろうかと恵梨沙は思う。男に気に入られて成功しようというこの学園の教えにはちょっぴり違和感を覚える。男を中心にしてその世界が回っていた亡き母親のことを思うと、たとえエグゼクティブの令夫人になれるとはいえ、男のご機嫌をうかがって生きるのは辟易する。一度結婚してしまえば、後は女房の天下だという意見もある。だが、自分にはもっと何か他の道もあるのではないかと考えてしまう。女というものは恋愛や結婚に重きを置いている生き物だが、世の中にはそうではない女もいる。何か自分の適性を活かして生きていくことだってできるのではないだろうかと彼女は思った。そういう考えは、持てる者にしか許されていないのかもしれないけれど。
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