花嫁指南学校
「桐原さん。両手でドアノブを持ったのは正解でしたが、扉を閉める時は私にお尻を向けないように」

 佐島学長は恵梨沙の入室のマナーについて細かい指摘をした。

「すみません。やり直します」

「今日は進路指導であなたを呼んだのではありませんから、それは結構です。こちらにお座りなさい」

 恵梨沙は一礼して学長のデスクの前にある椅子に座った。

「進路指導部長から伺いました。あなたは来宮良寛医師との縁談を断りたいそうですね」

「さようです」

「そのわけを私に話しなさい」

「私は何も来宮先生のことが嫌いになったからあのお話を断るのではありません。先生は人間的にとても素晴らしい方ですので、初めは私も彼とお付き合いを進めていきたいと思いました。先生は病気の子どもたちを救おうと、日夜身を粉にして働いていらっしゃいます。私はその真摯な姿勢を見て、是非ともそばで彼を支えたいと思いました。ですが先生から医師の仕事の話を伺い、その社会に対する貢献度の高さを認識するうちに、私の中である感情が芽生えました」

「それはどのような感情ですか」

「私も医療に携わりたいと、理学療法士になりたいという希望を抱くようになりました」

「あなたは来宮先生の体験談に感動し、自分自身も医学を志すようになったのですね?」

「はい、それこそが私の天職なのではないかと思います」
 恵梨沙はうなずく。

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