花嫁指南学校

　ルームメイトの谷野菫もそういうタイプの女の子である。彼女は専攻科に在籍するナズナより一つ年下の短大二年生だが、彼女は先輩のナズナをバカにしていた。同じ部屋で生活していても菫がルームメイトに話し掛けてくることはまずない。朝起きる時も夜寝る時も、「おはよう」と「お休み」の挨拶をすることはない。実に冷え切った関係である。たまに口を開けば「本橋先輩は勉強好きだから専攻科に残ったんですね」などと、居残り組のナズナに対して嫌味な物言いをする。そのくせ教師の前ではものすごく礼儀正しくて愛想がいい。ナズナがおっとりした性格だからまだいいようなものの、もっと気の強い学生と同室になったらケンカになってしまうだろう。

　噂によると谷野菫の父親は広島で建設業を営んでいたらしい。建設関係といっても社長の顔に傷が入っているようなタイプの土建屋で、一時は羽振りが良かったものの、手抜き工事がばれて企業は倒産してしまった。父親は手抜き工事や不正入札といった複数の罪を問われて警察に捕まった。菫のあのはんぱではない根性の座り方は、辛酸をなめたヤクザの娘ならではものである。

　菫は少女時代に豊かな生活を経験しているせいで、富裕な身分に返り咲こうという意識が人一倍強い。なんでも最近、地方都市で大きな歯科医院を開業している家の跡取り息子との縁談がまとまったそうだ。どおりでいつも以上に得意げな顔をしているわけだ。キャンパスでもお相手からもらったイタリア製の指輪をはめていて、度々わざとらしくそれを陽にかざしてみせている。これで菫はますますルームメイトに優越感を抱くようになるだろう。後輩の桐原恵梨沙などは美人で優等生なのに少しもそれを鼻に掛けないが、こういう大したことない女にかぎってプライドが高いのである。