花嫁指南学校
 ナズナは久しぶりに結婚相談課から見合いの話を持ち掛けられた。

 相手は四十代半ばの公認会計士で地方に会計士事務所を構えている。彼には離婚歴があり中学生と小学生の子どもを男手一つで育てている。彼は家事と子どもの世話をしてくれる女性を探しているのだという。条件としてはあまり魅力的ではないが、崖っぷちにいるナズナは相手を選ぶ立場にはない。彼女は二つ返事で縁談を引き受けることにした。

 当日、ナズナは寮のメイクルームに入って身支度を整えた。衣装部が用意してきた洋服は、花のカットワークが付いたベージュのツーピースでサイズは十一号だったのだが、ナズナにはきつかった。しばらく運動をさぼっているうちにまた体重が増えたようである。困った衣装部のスタッフは彼女に振袖を着せることにした。着物ならサイズはさほど関係ない。スタイリストの藤本はナズナに和装用のメイクアップをしてくれたが、ふくよかな顔のせいでおてもやんのようになってしまった。

 会場は都心の一流ホテルのレストランで、進路指導部はフレンチのディナーを予約していた。奇しくもナズナは痩せ薬の女子学生と同じ振袖姿で見合いの席に参上することとなった。頭の中で洋食のテーブルマナーを必死におさらいしながら、彼女はハイヤーでホテルに向かった。車中、今回でなんとか決まりますようにと彼女は祈っていた。
< 66 / 145 >

この作品をシェア

pagetop