花嫁指南学校
 最悪のお見合いだった。学園の歴史上、見合いの席でこんな最低な目にあった学生はおそらくナズナの他にいないだろう。ナズナは自分が情けなかった。

 その夜、寮の部屋でナズナは布団をかぶって泣いた。泣いているのを同居人の菫に知られたら、またバカにされ、彼女の友だちにそのことを吹聴されるだろう。「うちの同居人、見合いがぽしゃって泣いてたわよ。だっさーい!」なんて得意げに話す菫の顔が頭に思い浮かぶ。なんとか声を上げないように努めたが、喉の奥から嗚咽が次から次へと飛び出してくる。

 案の定、同居人は隣のベッドから「少しは静かにしてくれませんかぁ。私、明日早いんですよ!」とクレームをつけてきた。ルームメイトが泣いていても「うるさい」としか思わない冷たい女が玉の輿に乗って、この自分は誰にも選んでもらえず路頭に迷おうとしている。世の中とはなんて不公平なのだろうと思うと、ますます悲しさが込み上げてくる。

 それにしても今日の見合い相手のあの男。なんて失礼な男なのだろうか。いくら期待していた女の子が来なかったからといって、本人の前で容姿のことをけなすなんて、デリカシーが無いにもほどがある! おまけに四十過ぎでバツイチの子持ちやもめのくせに、二十歳そこそこのアイドルみたいな娘と再婚しようだなんて厚かましい。だいたいそんな小娘に小学生と中学生の子どもの世話なんか務まるわけがない。再婚相手に若さと家事能力の両方を求めるなんてなんと無謀なのだろうか。いくらエリートでもあんなオヤジと結婚するくらいなら実家に戻って貧乏暮らしをする方がよっぽどマシだ。この話は消えて正解だ。そう思うとナズナの心も少しは晴れてきた。
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