花嫁指南学校
「この外見でわかると思うけど僕はアメリカ人と日本人のミックスなんだ。国籍はアメリカだ。母が日本人なので日常会話程度の日本語はできるから安心したまえ」

 それを聞いて英語が苦手なナズナは安心した。

「お見合いだっていうのにコーヒーショップに呼び出してしまって驚いているだろうけど、ここに呼んだのは僕のビジネスの一端を君に見せたかったからなんだ。このオフィスビルは僕の勤める企業が所有しているものなんだ」

「あなたのお仕事は何なのですか。ピーターソンさん」

 ナズナはたずねる。今回、進路指導部からは相手の釣書を見せてもらっていない。

「金融関係だよ。君たち日本人が『外資系』と呼ぶ企業に勤めている」

「そうですか」

 そう言われてもナズナには金融業が一体どういうビジネスなのか見当もつかない。

「今日は私を呼んでくださってどうもありがとうございます。なんでもピーターソンさんは先日逗留先のホテルで私を見掛けて、私のことを探してくださったとか」

「まあまあ本橋さん。そんなにかたくならずにリラックスしてくれよ。そのホットチョコレートでも飲んでさ。それから僕のこともアレックスと呼んでいいから」

「わかりました」

「話を戻すよ。君の言うとおり、先週泊まっていたホテルで僕は着物姿の君がハイヤーに乗り込むのを見掛けたんだよ。着物姿の君は叔母の若い頃にそっくりでさ。僕はすぐに秘書にホテルの施設を全て当たらせて、あの時間帯に着物姿の若い女性が利用した店を割り出した。君の学校があの時間帯にディナーの予約を入れていたものだから、君の居場所はすぐにわかったよ。聞くところによると君はカメリア女学園という特殊な女子校の学生で、あの日は学校が紹介する男性とお見合いをしていたそうだね。その縁談がまとまらなくて本当にラッキーだったよ」

 アレックスがうれしそうに言う。
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