花嫁指南学校
伝説の女

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 私立カメリア女学園には「学園伝説」と呼ばれる、学生たちの間でまことしやかに語り継がれる噂がある。

 下層階級に生まれ、玉の輿に乗るという手段で階級の階段を駆け上がろうとしている学生たちにとって、事を成しそこなうということほど恐ろしいことはない。毎年ほぼ百パーセントの割合で学生たちの行き先が決まるが、学園の歴史上、不幸にも軌道を外れてしまった学生も少なからず存在する。大半は体を壊して田舎に戻されるケースである。学生たちは低所得の家庭の出身なので、実家に戻っても医療費もままならない状態で自宅療養を続けるしかない。運良く病気が治って地元で就職や結婚をする者もいるが、中には不遇のうちにその短い生涯を終える者もいる。そういった者たちの悲運が学園伝説となって、後輩たちの口の端に上るのだ。

 なんにせよ、ひとたびお金持ちと結婚してしまえば後は病気になろうと何が起ころうと夫が面倒を見てくれるので、結婚相手を見つけるまで健康を維持するのが大切なのだ。学園がその敷地内にジムを設置しているのは、美容のためだけではなくもちろん健康増進のためでもある。学生たちはたとえ成年に達していても飲酒や喫煙は固く禁じられている。お見合いの席で付き合いのために酒を飲むことは例外的に認められているが、基本的に健康を損なうような行為は校則で禁止されている。もしこの校則に違反した場合、学生は生活指導部長からの訓戒と寮での謹慎処分を受ける。若者というのはとかく不摂生に陥りがちなものだが、カメリアの学生に関していえば平均的な女子学生よりも健康診断の結果は良好である。
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