マッタリ=1ダース【1p集】

第11話、細氷にて友を討つ

「新蔵!」

 佐平は鬼の形相で叫んだ。鍔(つば)競り合いを始めて、二人の動きが小刻になった。

「剣を退くのだ。これ以上、お主まで切りとうはない」

 二人の息使いは荒い。
 鍔競り合いをする二人の周りには、骸(むくろ)が三つ、無造作に転がっている。それは、瞬く間に佐平に切り伏せられた、成れの果てである。

「お願いだ、新蔵。頼む。剣を、剣を退いてはくれぬか?」

 歯を食い縛って佐平は言う。二人の刃が、ガチガチと音をたてている。

「佐平よ。もう無理じゃ、おしまいなのじゃ。わしは騙された。彼奴らに騙されたのじゃ。取り返しの着かぬことをしでかしてしもうた…」

 新蔵の目から涙がこぼれ落ちる。悔しさが滲み出て、狂人のような呻き声を発した。

「殿はお主の事を頼むと仰せじゃ。生きて顔を見せよとの仰せなのじゃ。これは上意じゃ。新蔵、剣を退けい! 上意に従うのじゃ!」

 佐平は鍔競り合いのまま、ずいっと、にじり寄った。

「殿が、そのように…」

「そうじゃ、殿はお主を見捨ててはおらぬ」

 新蔵は目を真っ赤にして、咽(むせ)び泣く。
 だがその瞬間、新蔵は佐平の鍔を振り解き、柄頭(つかがしら)で左肩を突く。よろめいた佐平に向かって刀を振り上げ、新蔵は雄叫びを上げて振り下ろした。


 ズブッシューーー……ッ。


 一瞬の出来事であった。
 体勢を崩した佐平は、小太刀の如く逆刃に持ち替えると、風が吹くように新蔵の臓腑を、真横から切り裂いた。

「うっっぷぷぅ…」

 佐平の斜め後ろで、新蔵がバッサリと倒れた。

「がはっ」

「新蔵ぉぉーーーーーーっ」

 すぐさま佐平は新蔵の元へ駆け寄り、抱き寄せた。血の気を失った新蔵は、ぶるぶると震えていた。

「何故じゃ、何ゆえ剣を退かなかったのじゃ」

「ごっふっ…。へへへ。佐平よ。貴様、始めから泣いてたじゃねぇか」

「…」

「わしの首を取ることが…、上意なんじゃろ? わしが生きておっては上意は果されぬ。それは貴様が責めを負うという事じゃ。この期に及んで、そんな恥を貴様にかかせる訳にはいかんよ」

 友はそう言って、手の中で息絶えた。

 その日は見た事のない雪が降っていた。

 佐平は剣を捨てた。


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